マリブのブログ

ニ匹ののら猫と一緒に随時三匹の飼い主を募集中の元帰国子女。。オススメの映画やドラマの感想を徒然に紹介しています。

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映画『聯合艦隊司令長官山本五十六』の私的な感想―戦争の裏にあるもの―

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聯合艦隊司令長官 山本五十六-太平洋戦争70年目の真実-/2011(日本)
監督:成島出
主演:役所 広司/坂東 三津五郎、柳葉 敏郎、阿部 寛、椎名 桔平、玉木 宏、香川 照之、宮本 信子

 昭和男児の面影 

終戦記念日にちょっと振り返ってみたい戦争映画です。

 

「太平洋戦争70年目の真実」なんてあからさまな客寄せキャッチコピーを付けられたおかげで、時代考証の誤認や陸軍の悪玉論に異論を唱える専門家等から随分やり玉に挙げられましたが、監督がこの作品で伝えたかったのは本当に事実の釈明だったのでしょうか?

薄れゆく戦争の真実を後世に残す事は映画産業を担う者たちの責務でもありますが、まず実体験のない自分たちには、辛酸をなめた彼らの時代背景には想像も及びません。

 

片親だった自分はよく幼少の頃に、シベリアに抑留されていた祖父から事あるごとに興味本位で戦争体験を聴いてはいましたが、相当彼の口が重かった事を記憶しています。

それでも戦友会なるものに向かう祖父の、はにかみながらも嬉しそうなその横顔。。

今思うに、きっと彼らには自分たちには推し量る事の出来ない本当の生死を共にした者だけが分かちあえる深い絆のようなものがあったように感じます。

 

役所広司版で演じる山本五十六の半生を通じて見えてくるのは、正にそんな黙して多くを語らない昭和男児の面影

この映画では様々な解釈のある歴史上の人物となった彼の人となりを、政治の中枢に蔓延る戊辰戦争からのわだかまりも交え、きちんと分かりやすく説明し伝えています。

そして真珠湾攻撃を始め、太平洋戦争を勃発させたとされる彼の葛藤や苦しみも。。

 

山本五十六本人の遺族が監修に関わっていた経緯もあり、少々彼の人物像が美化され過ぎている描写も散見しますが、自分はなによりも、そんな遠い過去の時代に生きていた彼らの現実が現代社会の日本の暗部にどうしてもリンクしてくるような感覚を覚えました。

 

 

 

―――昭和14年(1939年)、日独伊三国軍事同盟を締結させようとする軍部の思惑が広がりつつある中、海軍次官だった山本五十六は何時になく消極的。
同じ志を持つ軍務局長の井上成美と共に、欧米列強に遅れまじと血気盛んに議論を繰り広げる若い将校たちを諭しつつも、時勢の勢いは止められない。
東京日報の主幹、宗像たちにも煽られる中、日露戦争、支那事変と連戦連勝してきた日本は、山本の不安を他所に遂にナチスドイツとの同盟を結ぶ。
やがて時の海軍大臣、米内光政により聯合艦隊を率いる総司令官に任命された山本は、暗雲立ち込める国際情勢に翻弄されながらも、自らの信念と決意の元、戦争の終結に向けた講和条約の道を模索し続ける。

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 山本五十六の人物像

山本五十六の格言に以下のような句があります。

「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」

故郷の長岡に近い江戸時代の米沢藩の名藩主、上杉鷹山から影響を受けたとされるこの句のとおり、彼は最期となった連合艦隊司令官としてのその一時で、様々な士官、将校、或いは一新兵とも、極めて真摯に向き合っていました。

劇中、架空の人物として登場する五十嵐隼士演じる同郷のゼロ戦パイロットとの交流にも、そんな彼の優しさが滲み出ています。

このエピソード自体はフィクションと言えど、彼が空母「赤城」艦長時代、艦載機に乗って行方不明となった搭乗員が漁船に救助され戻ってきた時に涙を流し喜んだ話や、南郷茂章大尉が戦死した際に遺族の元を訪れ、卒倒するほど慟哭した逸話からも、彼の実直で思いやりのある性格はある程度史実に基づいた設定だったのでしょう。

そんな彼の内に秘める情動を役所広司が眼力のみで演じきっている様には正しく感服。

史実では「とっつきにくい人だったが、はかり知れぬ深さのある人」とあるように、ミッドウェー海戦中に部下が次々と戦死してゆく中でも黙々と将棋を指し続けている描写には、分かり難い様ですが、黙して語らず、彼の思慮深さの奥にそこはかとない深い悲しみに打ち沈んでいる様子が見受けられます。

 

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 戦争映画で伝えたい事

史実や実在の人物を扱う映画となると大抵辛辣な酷評が付きまといますが、戦争を知らない世代の人間からすると、この手の作品においては様々な見地からそれぞれの見解をまずは見せてみてもいいんじゃないでしょうか?

 

70年以上も前の人物像となると、正確な情報などありません。

ましてや日本の海軍史上最も功罪相半ばした半生を送った末に南方の小島ブーゲンビルに散った提督ともなると、その評価はまちまちです。

 

なのでこの映画を通じて考えるべき点はただ一つ、何故戦争ははじまったのか?

 

山本五十六のヒロイズムを十分に咀嚼した上で、彼の周囲の環境に冷静に目を向けるとそれは見えてきます。

 

冒頭の三国同盟を誰が推し進めたのかについてはちょっと置いておいて、当時、大国と謳われた中国やロシアを多大な犠牲を払った後になんとか打ち負かしていた日本が、軍部主導のファシズムに傾倒していった経緯は想像するに容易いはず。

しかしその後アメリカの大恐慌に巻き込まれ不景気の煽りを受けた一般市民が、過去の過失を忘れ、軍部以上に軍需景気に期待を持つ機運を高めていった事もまた事実でしょう。

アメリカや欧米諸国からの支援なくしては銃火器一つまともに作れなかった日本が、資源確保の為に大東亜戦争と称した侵略を繰り返していった裏には、それを助長していた民意があったからでこその顛末で、その結果日本は・・・

作品の中で、架空ですがリアルな巷の声を代弁している新聞記者、街の市民のぼやきは、蒙昧な知識のまま全体主義的な都合のいい拠り所を探る人々の様子を克明に描写しています。

そんな勤勉だが忘れやすい我々日本人に対し、劇中の山本五十六はそれを一種の美徳と称しつつも、どこか儚げ。

 

思うに成島出監督が伝えたかったのは、何よりもここでしょう。

それは史実の人物の目線を通じた、妄執していく日本人の危うさ

 

更に言えば現代社会にも通じる世論を扇動するマスコミの怖さでもあり、悲劇を容易く忘れやすい我々にはそれを忘れない事こそが、前轍を踏まない唯一の道の様な気がしてきます。

ストーリーテラーでもあり、山本五十六からしっかりその心のあり様を学ぶことになる玉木宏演じる新聞記者は、

「世界を自分の目でよく見て、聞いて、感じること」


とジェスチャーを交えて彼から教わりますが、これは何時の世でも普遍的な教え。

終戦記念日自体を忘却の彼方へ忘れ去ろうとしている我々日本人が、そんな当たり前の教訓をもう一度当たり前の様に思い返すには、正にうってつけのきっかけとなるのがこの作品です。

 

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