Den skyldige/The Guilty/2018(デンマーク)/88分
監督:グスタフ・モーラー
主演:ヤコブ・セーダーグレン/イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィー
研ぎ澄まされる聴覚
ワンシチュエーションドラマとしては久々の大傑作。
人の持つ善意の裏で蠢く業をくっきりと浮かび上がらせてくる。
近年では『ロスト・バケーション』等に代表されるワンシチュエーションスリラーは、まずその緊張感をいかに持続させたまま、更にそれを盛り上げてくるかが常套手段だか、この作品ではそこに聴覚を研ぎ澄ませた男の自尊心を組み合わせたドラマに仕上げてきた。
それはウォーターサーバーから漏れる空気音だったり、コップの水の中で溶けだす錠剤の音だったりするが、この時点で観客は男の持つ繊細な能力に魅せられていく。
実際、劇場内では『クワイエット・プレイス』並の静けさが保たれ、暗黙の了解の内に聞き耳をそばだてる連帯意識が生まれていたが、そんな主人公の男の目線とリンクすると、彼が『ギルティ』=罪を犯している事自体をも忘れさせられてしまう。。
スウェーデン生まれのグスタフ・モーラー監督は、デンマークの国立映画学校を卒業した新進気鋭の若手監督だが、この作品が初の長編デビュー作とは思えないくらい、人の心の機微を映像に移し替えるのが非常に上手い。
登場する役者は一人ではないが、オペレーターという精神的な密室空間を巧みに作り込み、そこで起こる数時間の内の緊張と緩和、更に俳優の額に滲む汗や電話越しの相手の声色なんかにも、微妙な変化を織り交ぜている。
ハリウッドではジェイク・ギレンホールがあっという間にこの作品に惚れこみ、彼自身が製作と主演を兼ねて早々にリメイク化が決定したようだが、この手の閉鎖的な空間の中で切り取られたそれぞれのカット、サイズ、アングルは、紛れもなくグスタフ・モーラー監督の持つ一際際立った感性で描かれている為、きっとその手法は誰にも真似できないだろう。
あらすじ
緊急通報指令室のオペレーターであるアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は、ある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど、些細な事件に応対する日々が続いていた。
そんなある日、一本の通報を受ける。
それは今まさに誘拐されているという女性自身からの通報だった。
彼に与えられた事件解決の手段は”電話”だけ。
車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣い・・・。
微かに聞こえる音だけを手がかりに、“見えない”事件を解決することはできるのか―。
Filmarksより抜粋
想像力で繋がっていく緊張感
密室で繰り広げられるワンシチュエーションドラマと言えば、自分にとってやっぱり忘れられないのはトム・ハーディが孤独な男の一晩を見せてくれた『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』だけど、今思えば、この映画の虚脱感は父親とのれっきとした確執なんかでもない限り、中々人に伝わりにくい。
その点、この作品の主人公アスガーには、万人に共感できる部分が多い。
顔の見えない相手を想像する電話という媒体には、誰もが一度は必ず何らかの間違いを犯した経験があるであろう不安要素を秘めている。
更にそこに感情なんかが乗っかってしまうと、人は自然に自分に有意な環境を作り出そうとしてしまう為、何かとトラブルに陥りやすい。
そんな危機管理意識から編み出されたLINE等のソーシャルメディアの発達により、自分達は気づかない間に相手の状況を鑑みる事を無視してしまっているが、もしそれを業務として行わざるを得ない警察官にスポットを当ててみたら・・
感覚的なスリラー要素たっぷりに進行していく、このリアルタイムのサスペンス劇には、秀逸な点が二つある。
その一つは、視覚的な恐怖を一切写さず、全てを観客の想像力に委ねた事。
つまり、その感性を研ぎ澄ませていけば、映像は幾通りにも広がる。
まさにVRいらずで、自ずと想像してしまう画が、それぞれの集中力を自然に高めてくれるわけだ。
そして、それと化学反応を起こす様に、主人公の秘める過剰な正義感の正体が、物語の奥行を広げていくのだが・・
邪悪な蛇(※以下、ネタバレあり)
スリラー映画の出来不出来は、観客が如何にそのシチュエーションにのめり込めるかで、大抵決まってきてしまう。
自分達はそうした状況にノリツッコミを入れながらも、相手の心象風景に感情移入が出来るとそこに没頭してくのだけど、この映画の監督は、そこに普遍的な人のテーマを注入してきた。
少し神経質そうなアスガーが、冒頭から周囲の同僚や電話越しの相手の感情に過敏に接しているのもその為で、「自分ならそこまで・・」とか、「仕事に私情は挟まない」なんてケチをつけながらも、並外れた鋭い感覚を持つ彼の正体に次第に惹かれ、目が釘付けになってゆく。
タイトルの“ギルティ”が示す罪は、そんな研ぎ澄まされた彼が裁く犯罪捜査の真偽だけではない。
通報者との会話の果てに暴かれていく彼の内省的な情熱は、万人が持ち合わせていたはずの良心の呵責へと回帰してゆく。
想像力を持って相手を思いやる事は、道徳上の通念だとしても、大抵の人間はそこを主観でしか広げられない。
それは、自分達の思う正義にしか情動が動かない人の本質でもある。
アスガーが、神経の衰弱しきった通報者の女の身を案じたのは、紛れもない正義感からだが、そこに生じていたのは、自責の念にかられていた者が信じ込んでいた罪悪感に対する言い訳ともとれてしまう。
そして、その彼が言いわけを続ける事によって図らずとも追い詰めていく女が、薄弱だがしっかりと残るその
その象徴となるのが、彼女の信じる邪悪な蛇。
この相手の妄想を受け入れた時に、オスガーは警察官として長年患ってきた
その
人への愛情を忘れない巧みな演出によって、贖罪から解放された主人公が手を伸ばしたくなる相手の正体は、彼にとって最愛の相手以外に、他にありえないだろうから。。
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