マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『初恋』の私的な感想―三池ワールドの時代が駆け巡る。歌舞伎町ロマンスから零れ落ちる本物の純愛―

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FIRST LOVE/2020(日本)/115分
監督:三池 崇史
主演:窪田 正孝/
大森 南朋、染谷 将太、小西 桜子、ベッキー、村上 淳、滝藤 賢一、内野 聖陽

 愛憎渦巻く真のエンターテインメント

三池映画でこんなにもアドレナリンが出まくったのは久しぶり。

これぞ正しくザッツ・オール・エンターテイメント!

随所に遊び心もしっかり滲ませながら、ポップでクレイジーな彼のお家芸が再び戻ってきてくれた。

 

個人的には、痛快なんて言葉じゃ語りつくせない程、三池崇史の映画は残酷で正直で、そしてピュアであると確信している。

狛江ユニティー全面協力の元、作り上げられた今回のバイオレンスアクションは、そんんな純情少年のような彼の夢が、たっぷり盛り込まれていた。

 

彼のシニカルな笑いの芸風が、ラヴストーリーとは頗る相性が悪いという声も巷ではちらほら聴こえてくるけど、私的には、三池監督程愛憎を理解しつくしている監督も、日本にはまずいない。

 

涙があるから笑いがある。

苦しみがるからこそ、喜びがある。

 

そんな安っぽい台詞は彼に似合わないが、映画が芸術ではなくエンターテインメントである意義を教えてくれた三池監督は、等々、需要の伸び悩むラブロマンスの体で、最高に解放感に溢れたアクション映画を撮りあげてしまった。。。

 

 

 

 

 

あらすじ
舞台は、さまざまな事情を抱えた人間たちが流れ込む欲望の街・新宿歌舞伎町。
天涯孤独ながら希有な才能を持つプロボクサーの葛城レオ(窪田正孝)が、負けるはずのない相手との試合でKO負けを喫し、試合後の診察で余命いくばくも無い病に侵されていることを知る。
自暴自棄になったレオが、気もそぞろに繁華街を歩いていると、男に追われる少女に出くわす。
ただ事ではない様子を察したレオは条件反射的に男をKO。
気を失った男のポケットにあった、警察手帳をとっさに懐へとしまうと、少女の後を追った。
少女はモニカ(小西桜子)と名乗り、親の虐待から逃れるように街へ流れついて、ヤクザに囚われていたことを明かす。
KOされた男は悪徳刑事・大伴(大森南朋)でヤクザの策士・加瀬(染谷将太)と裏で手を組み、ヤクザの資金源となる“ブツ”を横取りしようと画策、モニカを見張っていたのだ。
ヤクザと大伴から追われる身となったレオだが、モニカと自らの境遇が重なる部分もあり、どうせ短い命ならと半ばやけくそで彼女を救おうと決意する。
一方で、モニカと共に資金源となる“ブツ”が消えさらにヤクザの一員・ヤス(三浦貴大)が殺されたことを彼女のジュリ(ベッキー)から知らされる組員一同は、組長代行(塩見三省)の基で今にも一触即発の様相を呈している。
一連の事件をチャイニーズマフィアの仕業だと踏んだ組随一の武闘派・権藤(内野聖陽)が組の核弾頭・市川(村上淳)と共に復讐を決意し、ジュリも後を追った。ヤクザとチャイニーズマフィアに悪徳刑事。
ならず者たちの争いに巻き込まれた孤独なレオとモニカが行きつく先に待ち受けるものとは……。
欲望渦巻く繁華街で出会った孤独な二人が過ごした、人生で最も濃密な一夜の結末や如何に。
Filmarksより引用

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 笑いから生まれる不条理

それでも、『初恋』なんてあまりにこっぱずかしいタイトルを、あのニヒルで照れ屋な監督がよく受け入れたものだ。

それも長年タッグを組み続けた脚本家、NAKA雅MURA氏の成せる業。。

さらに東映幹部からの抜擢を受け、あの大ヒットを飛ばした白石和彌監督の『孤狼の血』に追いつけ追い越せ。。

そこに低予算時代から苦楽を共にしてきたスタッフが再集結し、一世一代の花火を打ち上げてみたのだから、面白くならないわけがない。

 

そんな監督の底意地に突き動かされた俳優の熱量も凄まじかった。

主演を張った窪田正孝は、『HiGH&LOW』シリーズのスモーキー役でストレスでも溜まっていたのか、大仰な程前のめりの迫真の演技で、未来を閉ざされたボクサーを熱演。

オーディションからクスリ漬けのヒロインの座を掴み取った小西桜子も、やけにリアルな現代少女の不安定さを感じさせる。

個人的には、激しい恫喝シーンで他を圧倒したベッキーの素晴らしい演技力が最高に魅力的だったが、次世代カメレオン俳優の名を欲しいままにする染谷将太が、その存在感さえも更に上回っていた。

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・・とは言え、チャッキー顔負けのベッキーのこの迫力だけは、かなり必見。。



古き良き時代のヤクザとは一味違う、無感情で最高にクール、それでいて、そのままにならない人生の生き様は、強烈に脳幹に響いてくる。

 

随所に散りばめられたセルフオマージュのような既視感も、Vシネ時代からの三池作品を折触れて手にしてきた自分達にとっては、たまらなく嬉しい演出だ。

黒社会シリーズ』を彷彿とさせる望郷の電車風景やチャイニーズマフィア。

その演技力を三池作品で開花させた大森南朋は、『殺し屋1』の頃と打って変わって体制側の汚職刑事を演じているが、どこかそのやさぐれ具合はあの頃と同じまま。

そしてムラジュン、塩見三省with内野聖陽で魅せる任侠一家は、三池ヤクザ映画の代名詞。

大映配給時代の、そのうらぶれた極道の背徳感をひっそりと纏いながらも、どこかコミカルな三池ワールドの住人をしっかり演じきる。

 

・・まるでこの虚構の茶番劇が、虚無に覆われた日本社会の縮図であるかのように。。

 

鬼才監督園子温よりもインモラルで、頭脳派コメディー監督吉田大八よりもキッチュだが、青龍刀からショットガンまで飛び出してくる振り切ったアクションシーンで、チャイニーズマフィアの口から、この時代に、“”の台詞を吐き出させる演出は、他のどの監督にも出来ないシニカルなセンス。

 

そうしてこれ迄の彼の分水嶺を辿り、濃密に凝縮された今回の三池ワールドは、本当の“初恋”の意味を最期にしっかり教えてくれた。


それは、どうしようもない人の愚かさと微睡みとが交差する時に零れ落ちる

或いは、個人主義に圧され、寄り添い処を失った全少年達へ向けての、希望だろうか?

 

新・仁義の墓場』を彷彿とさせるカメラワークで、アパートに戻る二人の主人公の様子からは、そんな昭和浪漫の哀愁が滲み出ている。

 

この時代遅れの歌舞伎町ラブロマンスを、「さらば、バイオレンス」なんてキャッチコピーで皮肉るトコロも、雑食系アナーキストならではの三池監督だけがなせる荒業。

 

社会悪や人の不安心、或いは貧困層の心理を具に描く事のできる監督はいても、笑いの中で不条理を完全エンターテイメント化できる監督は、彼をおいて他にいない。

 

・・それでも 、、

 

とうとう集大成のような傑作を創り上げてしまった今回の映画で、あのはにかんだ監督の笑顔が消えていってしまうような一抹の寂しさを感じたのは、ロスジェネ世代で監督の人間性をこよなく愛してしまった、自分だけなんだろうか?

 

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