マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『野火』の私的な感想―人間の極地が生み出す地獄絵図。薄れゆく戦争の記憶―

Fires on the Plain01

Fires on the Plain/2015(日本)/87分
監督/脚本:塚本 晋也
主演:塚本 晋也/森 優作、中村 達也、中村 優子、リリー・フランキー

 戦争映画に求めるもの

終戦から74年の月日が経った。

けれど、この苛烈な戦争映画を見ようとする日本人は滅多にいない。

 

そんな自分も、この映画に手を出すまでには随分と長い時間がかかってしまった。

強烈なグロ描写と鮮血の血しぶき、そして究極のカニバリズム・・

前評判から余りに過激な内容が漏れ聴こえてくる中、戦争映画というよりは、むしろホラー映画感覚に近いこの作品を見る意味はなんだろうか?

 

“戦争を知らない子供たち”なんて言葉が街場に溢れる現代で、自分は無意識の内に、耳の痛い戦争話をする年配者を、どこかで避けてきてしまったような気もしている。

それは戦争の悲劇をどれだけ叫ばれても、自分達にはその実感が湧かないからだ。

 

59年にようやく市川崑監督によって映画化されたこの『野火』を、塚本晋也は更にそこから半世紀以上を経て、当時配慮されてカットされていた食人俗の様子も含め、包み隠さずにリメイクした。

その構想に20年以上の年月を費やし、監督・主演・編集・脚本・撮影の5役まで熟した末に、出資会社の賛同さえも得る事ができず、自主配給という極めて珍しい体制で公開までこぎ着けたその執念は、崇高過ぎるとしか言いようがないが、それでもどこかとっつきづらさの様なものを感じていた。

 

つまり、戦争映画にリアル過ぎる描写は本当に必要なのか?

そして、そのストーリーではなく画力で攻める演出は、どれだけの人の戦争抑止力に繋がっていけるのか?

 

そんな素朴な疑問とコワさもあり、直ぐに手を出せなかった自分を激しく後悔させられるほど、この作品には他の戦争映画にはない生の人の心がくっきりと描かれている。

 

 

 

 

あらすじ
第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。
日本軍の敗戦が色濃くなった中、田村一等兵(塚本晋也)は結核を患い、部隊を追い出されて野戦病院行きを余儀なくされる。
しかし負傷兵だらけで食料も困窮している最中、少ない食料しか持ち合わせていない田村は追い出され、ふたたび戻った部隊からも入隊を拒否される。
そして原野を彷徨うことになる。
空腹と孤独、そして容赦なく照りつける太陽の熱さと戦いながら、田村が見たものとは・・・
Filmarksより引用

Fires on the Plain02

 人間の極地

戦争映画を低予算で撮るには限界がある。

それは、弾着や衣裳、美術セットやオープンロケに至るまで、リアルさを追求すればそれに比例し、予算は必然的にかさんでいく。

更にそのエンタメとは呼びづらい作風から、興行としての成功を納めるに為には、ある程度の人気俳優の出演と『アルキメデスの大戦』でも駆使されていたVFX技術なんかもどうしても必要になってくる。

 

長年企画を温めながらも、戦争を懐疑的に描くという時勢に逆らった監督の鋭い視点に、当初予算は全く集まらなかった。

そこで『鉄男』でもエッジの効いたアートセンスを遺憾なく発揮していた彼は、実はこの作品のアニメ化の道も模索していたらしい。

そこからどんな紆余曲折を経て、自主製作という大業に辿り着いたのかはわからないが、結論としてはこの作品はアニメでは到底描ききれなかっただろう。

それは、この作品のもつ熱量は、2次元ではきっと伝えきれない。

 

それでも、、

 

戦争映画にドラマ性はいらないと思っていた自分でさえ、そのあまりに凄惨でグロテスクな殺戮描写には、どうしても眉を顰めずにはいられなくなってしまった。

そこに描かれている兵士の生き様は、まさに地獄絵図そのもの。。

ゆっくりと人間性を失っていく彼らのその醜悪さは、嫌悪感さえ遥かに通り越して、呆然と言葉に詰まる。

 

原作の大岡昇平氏が、フィリピンのミンドロ島レイテ島タクロバン等での実際の戦争体験に基づいて描かれたこの作品には、他の戦争映画で描かれる様な美談は一切ない。

それどころか、薄いメイキャップの粗さをすっかり忘れてしまうほど、監督を含めた俳優陣の鬼気迫る演技に終始圧倒されていく。

更にその悲壮感を際立たせているのは、閑雅な実景映像。

その荒みきっていく兵士の心とは対照的な海や緑、そしてブーゲンビリアの流麗さなんかにも見とれていると、いつの間にかその心象風景を追体験させられてくる。

 

映画の軸には、飢餓から生み出される人の本性が絶えず描かれているが、葛藤する監督自身のアップが映し出される度に、塞ぎ込んだ時の自分の顔を鏡で見ているような嫌悪感に徐々に蝕まれていったのは自分だけだろうか・・?

 

劇中に出てくる“塩”には、聖書では実はこんな解釈がある。

「あなたがたは“地の塩”である。だが、塩に塩気がなくなれば、その塩は何によって塩味が付けられよう。もはや、何の役にも立たず、外に投げ捨てられ、人々に踏みつけられるだけである。
マタイによる福音書 5章13節

 

原作者の大岡氏は、幼少期に強く神父に憧れを抱いていたようだが、そんな彼が背教の末辿り着く凄惨な世界で、真理を求める“地の塩”を原住民を無残に惨殺した後に見つけるのは、この物語の最大の皮肉であり、嘆きだ。

 

戦争がなんでダメなのか?」というシンプルな問いに、皆さんはどう答えるだろう?

暴力は人を傷つけるから? 争いは貧困をもたらすから?

戦争を知らない自分達は、どうしてもそんな一般論をオブラートに包んで返す事しか出来ないが、生きながらに人間が人間でなくなっていく極地の有様を見せつけてくるこの映画を見れば、その計り知れない人の業火を、現実味が薄れゆく中で少しは身近に感じられるのかもしれない。

 

「野火」は以下のVODで鑑賞できます。 

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