マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『ゴーストランドの惨劇』の私的な感想―ハリウッドの惨劇を憂う皮肉な挑戦―(ネタバレあり)

Incident in a Ghostland01

Incident in a Ghostland/2019(カナダ、フランス)/91分
監督/脚本:パスカル・ロジェ
出演:クリスタル・リード、アナスタシア・フィリップス、テイラー・ヒックソン、エミリア・ジョーンズ

 強い既視感

短いながらも、随所に強い既視感を感じるスリラーだった。


W主演のエミリア・ジョーンズは“ハリポタ”の頃のエマ・ワトソンそっくりだし、その母親役の歌手・ミレーヌ・ファルメールには、サスペンス系の映画に登場する独特な母親役の雰囲気がたっぷりと立ち込めている・・。

更に、主人公の姉役、ヴェラを演じるアナスタシア・フィリップスには、『ヘレディタリー/継承』のトニコレ顔負けの顔芸をさせてみたりとか・・・

 

そもそも、少女達が移り住んだ先にやってくる狂人達という設定も、引っ越し系スリラー映画のど定番だし、そこで繰り広げられる監禁生活なんかは、『ベルリン・シンドローム』や『ドント・ブリーズ』、更には『ルーム』あたりでもさんざん描かれてきたいつもの脱走劇。

極めつけは、異様なドールハウスに出てくる人形達だが、これも『アナベル』のそれと殆ど一緒で、巨漢の変質者役の息子は、監督が崇拝するトビー・フーパーが生み出した『レザーフェイス』そのものだ。

 

そんなつぎはぎだらけのこのスリラー映画を、あの『マーターズ』でだいぶエッジのきいた恐怖を届けてくれたパスカル・ロジェが創り上げたのかと思い絶句していたら、監督のインタビュー原稿を読んでストンと腑に落ちた。

 

今のハリウッドは、お金しか見ないような人たちに支配されていて、作家性のある作り手の声が全く響かない作品ばかりが作られている。
特にホラー映画の平均的なレベルもかなり落ちているね。
―中略―
僕が子供の頃は、ウォルト・ディズニーの作品から始まって、そこから『タクシードライバー』や『ゴッドファーザー』、セルジオ・レオーネの作品など、大人向けの作品を観ることができた。
今のハリウッドで作られているような子供向けの作品はなかったんだ。。

Real Sound/監督インタビューより抜粋

 

言いたい事はよくわかる。

けれど、そんな愚痴を吐きながらも、パスカル・ロジェ本人が潮流に添った有り体のスリラー映画を作ってしまっては、それはあまりにジョークが過ぎる気がするのだけど・・

 

 

 

 

 

あらすじ
人里離れた叔母の家を相続し、そこに移り住むことになったシングルマザーのポリーンと双子の娘。
姉のヴェラは、奔放で現代的な少女。
一方妹のベスは、ラヴクラフトを崇拝する内向的な少女。
双子の姉妹ながら、性格は正反対だった。
新居に到着したその日の夜、突然の惨劇が一家を襲う。
2人の暴漢が家に押し入ってきたのだ。
しかし、娘を守ろうとする母は必死に反撃し、姉妹の目の前で暴漢たちをメッタ刺しにする―。
あの惨劇から16年後。ベスは小説家として成功したが、ヴェラは精神を病み、今もあの家で母と暮らしていた。
久しぶりに実家に戻ったベスを母は迎え入れるが、 ヴェラは地下室に閉じこもっていた。そして、ベスに向かって衝撃の言葉をつぶやく―。
Filmarksより引用

Incident in a Ghostland02

 オリジナルのオブジェ

結論から言うと、このどこか皮肉めいた映画は、ホラー&スリラー映画界の頂点の一つ、スペインのカタロニア国際映画祭にノミネートされ、更にはジェラルメ国際ファンタスティカ映画祭ではグランプリをも獲得し、どうどうとハリウッドでの配給が決定。

つまり、さんざん近年のハリウッドホラーをディスってきた彼は、このシニカルなカケにあっさりと勝ってしまった。。

そんな忸怩たる思いの中、他の鑑賞者のレビューを見てみると、それなりに評判がいい。

けれど、肝心なトリックの感想と、女の強さに対する解釈がちょっと少ない気もするので、自分は今回そこだけに焦点を絞ってみる。

 

メジャーデビュー作となる『MOTHER』から踏襲し続ける彼のアンダーグラウンドな世界観は、この作品ではちょっと違った。

ビビットな色合いと調度品でクラシカルに見せる映像は、これまでの彼の感覚にはない、どこか古典ホラー的な寓話っぽさを引き立たせている。

更に、彼の映画では毎回幻想世界へと迷い込んでいってしまう少女達のトラウマは、今回は至ってシンプルに、現実社会の側面に上手く溶け込んでいた。

 

監禁される二人の少女は、それを守ろうとした母親の存在自体で固く結ばれてゆき、活発だけど臆病な姉と、ナルシストで逃避癖のある妹との対比はかなりリアル。

そしてそこから逃げ出そうとする彼女達も、苦痛を受け入れてしまう姉と、抵抗する事をあきらめない妹との相性が抜群に良く、健気で幼気な姉妹の根っこからの繋がりも、たっぷりと感じ取ることができた。

 

けれど、そんな妹の夢の世界の見せ方にも、どこか既視感が・・

 

この虚構からランダムに現実へとフィードバックさせるトリッキーな手法は、難解映画界のキングこと、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』のそれと、実は全く一緒だ。

 

・・そんな中で、せめてものオリジナルの救いのオブジェがあるとすれば、、

成長したベスが、執筆の際に使っている旧式のタイプライターだろうか?

 

この存在によって、彼女達が経験した悪夢の“ゴーストランドの悲劇”はベスの処女作品へと変貌し、そのトラウマを後に見事克服するであろうH.P.ラヴクラフトとの出逢いへと繋がっていける。

 

この解釈には異論があるかもしれないが、ベスが逃げ込んでいた妄想世界は、一概に現実ではないと言えない気がしている。

つまりこれは『ネバー・エンディング・ストーリー』に代表される、夢と現実とが永遠にループしていくダーク・ファンタジーの要素を取り入れた、彼の唯一の新しい挑戦だったのかも。。

 

因みにこのH.P.ラヴクラフトとは、エドガー・アラン・ポー等と並んで、監督の愛するゴシック小説界の先駆者として、近年顕著に再評価され始めた実在したSF作家らしいが、やっぱりここにも、監督の揶揄的なトリックをちょっぴり感じてしまうけど。。

 

そうして、敬愛するオールドムービーと古典作品へのオマージュを、茶番劇な人気スリラー映画の要素に大胆にもたっぷりと潜り込ませ、単純化する映画界に憂いと皮肉を込めながらも、見事に商業映画ベースでの成功を証明してみせたパスカル・ロジェには、頓挫した未完の作品『The Girl』を更に上回る次回作への期待感を、膨らませずにはいられない。。。

 

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