マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『ア・ゴースト・ストーリー』の私的な感想―最期のメモに魅せられた男の魂―(ネタバレあり)

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A Ghost Story/2017(アメリカ)/92分
監督・脚本:デヴィッド・ロウリー
出演:ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ

 魂の消滅 

2018年に観た映画の中では、間違いなくNo.1のお気に入りになった作品。

タイムラプス効果やCG処理等を一切行わず、霊魂の立場から見せる世界という発想で漂うような時の流れを見事に実現させたその表現技法はあまりに独創的。

 

古いサイレント映画のような“スタンダードサイズ”で撮影されたこの作品は、ゴースト化するケイシー・アフレックが撮影中殆どオバQそのままの白いシーツを被って佇んでいた事を想像するとちょっと笑えてくるが、そのバックグラウンドにある人間の哀愁が溜まらなく込み上げてくる。

監督であるデヴィッド・ロウリーはこのアカデミー比を採用した事に対し、

「古い写真やスライドプロジェクターを観ているような印象を観客に抱かせる。
私たちは、フレームをもっと目立つようにこの手法を採用した。
いわば、フレームをプロセニアム(劇場で舞台と客席を区切る額縁型の壁面のこと)のように見せたかったんだ。
フレームの輪郭によって解釈されたイメージ、そういうものを目指したんだよ」

 

と力説しているがその狙いは正にドンピシャで、叙事詩的に描かれたこの作品の奥深さは、人類が未だ推し量る事の出来ない霊の存在を、ストレートに観客に訴えかけてくる。

 

・・貴方も一度は想像したことはないだろうか?

人は死んだらどうなるのかを・・

 

ヴァージニア・ウルフが定義した死生観をそのままに、極限まで人の魂の消滅を追求したこの作品は、映画を観ているという感覚よりも、人間そのものの存在意義を深く考えさせられてしまう。

 

www.youtube.com

 

 

 

 

―――ダラス郊外に住居を構えた作曲家のCとその妻・M。
ふたりは仲睦まじい夫婦だったが、ある日自動車事故でCは突然死んでしまう。
悲嘆に暮れる彼女の側でCは白い布を被ったゴーストとなり、何時までも彼女の側を離れようとしない・・

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 V・ウルフが描いた魂の世界 

タイトルから想像するとホラー映画の様だけど、中身は全くの別物。

霊魂の意義を描いたこの作品は『21グラム』のそれにも大分近いテーマではあるけれど、まるで絵本から飛び出してきたような実態のゴーストには常に哀愁が漂い続ける。

 

1980年生まれと若く、編集技師までこなすデヴィッド・ロウリー監督が『セインツ -約束の果て-』で起用したケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ両名と再びタッグを組んだこの映画は、それまでの幽霊の常識を覆す怪作とも言えるだろう。

ケイシー・アフレックは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で第89回アカデミー最優秀主演男優賞を受賞、ルーニー・マーラはあの『ドラゴン・タトゥーの女』で全身ピアス女を演じた超技巧派だが、劇中でのこの二人の会話は殆どなく、至ってスピリチュアルな作風で観客を魅了する。
 

ワンカットを大分長く回す冒頭で違和感を感じる方も多いかもしれないが、インタータイトルにあるV・ウルフの著書『幽霊屋敷』の一節が、実はその全てを語ってくれている。
 

V・ウルフ(ヴァージニア・ウルフ)とは

1882年生まれのイギリスの小説家。20世紀モダニズム文学の主要な作家の一人。『ダロウェイ夫人』 (1925)、『オーランドー』(1928)、『波』(1931)などの代表作のほかに、「女性が小説を書こうとするなら、お金と自分だけの部屋を持たなければならない」という主張の評論『自分だけの部屋』などで評論家としても知られている。

59歳の時に躁うつ病から入水自殺を図り死去するが、死後の人間の意識の存続を信じる考えを持ち、『現代小説論』の中でアーノルド・ベネット、H.G.ウェルズ等を物質主義者と批判した上で、自らを精神主義者(spiritualist)であるとしている。

wikipediaからの抜粋

 

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 彼女が残したメモ

宗教的な概念やゴーストのデフォルメ、更にはカットバック一つで壮大な意識の流れを描く潔い演出は、映像文学の集大成のようにも感じられる幻想郷。

この作品を観ると、人の魂はどうやって消滅するのかという究極の謎に思いを馳せながらも、声を発せずただ立ち尽くしているだけのゴーストが無性に愛おしく感じる。

そして、、

何よりも秀逸なのは、この映画に潜められた一つのトリック

それはルーニー・マーラ演じる妻が残したメモにすべてが集約されているが、その内容を最後まで明確に見せない事に疑問を抱いたヒトも少なくないだろう。

 

しかし一度観賞されたヒトは、必ずもう一度この作品を見返してみてもらいたい。

何故なら劇中の彼女の主観そのものに、このメモの謎の答えが潜められているからだ。

 

味わい深い挿入歌に彩られたその詩情は、まるで霊たちへ捧げられたバラードの様でもあり、近年の様々な映画やドラマに登場する霊=怨念を抱くものという図式を真正面からひっくり返してしまう。

 

そして貴方に愛する人がいれば、このメモの意味を知った時にきっと気づくだろう。

 

自分が何の為に生きて、そして死んでゆくのかを・・・

 

「ア・ゴースト・ストーリー」
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