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映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の私的な感想―行き場のない情動を抱え持つ女―(ネタバレあり)

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湯を沸かすほどの熱い愛/2016(日本)/126分
監督/脚本:中野 量太
出演:宮沢 りえ、杉咲 花、篠原 ゆき子、駿河 太郎、伊東 蒼、松坂 桃李、オダギリ ジョー他

 熱い愛を持った女の生き様

死ぬ前に、子供に伝えられるコトってなんだろう?

 

“愛”は言葉にすればするほど、軽くなる。

それなら人情とか教養とか、目に見えなくても、その子が自分で将来を切り開ける為に必要なコトを伝えてみたい。

 

だけどこの映画は、必死に守りたい誰かがいないヒト、或いはその恩恵に唯甘えているだけのヒトには、決して響かないだろう。

それが、どれだけ“湯を沸かすほどの熱い愛”を持った女の生き様でも。。

 

 

 

 

あらすじ

銭湯「幸 さちの湯」を営む幸野家。
しかし、父が1年前にふらっと出奔 し銭湯は休業状態。母・双葉は、持ち前の明るさと強さで、パートをしながら、娘を育てていた。
そんなある日、突然、「余命わずか」という宣告を受ける。
その日から彼女は、「絶対にやっておくべきこと」を決め、実行していく。
家出した夫を連れ帰り家業の銭湯を再開させる。
気が優しすぎる娘を独り立ちさせる。
娘をある人に会わせる。
その母の行動は、家族からすべての秘密を取り払うことになり、彼らはぶつかり合いながらもより強い絆で結びついていく。
そして家族は、究極の愛を込めて母を葬(おく)ることを決意する。
Filmarksより抜粋

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 赤色が好きな女(※以下、ネタバレあり)

母親のイメージというものは、大人になるに連れ少しずつ変わっていく。

強く優しい存在から、気怠く鬱陶しいヒトへ。。

やがて思春期を超えてくると、それが少しずつ後悔みたいなものへとすり替わってゆき、自分の何気ない物事への感覚やその癖が、いつの間にかすっかり染みついている事に気づき、無性に懐かしさを覚える。

幸か不幸か、自分はそんな有り体の母親像には全くありつけてこなかったけど、無意識の内に、ふと歪な畏怖の念を母親に抱く瞬間がある。

 

劇中の母親役を演じる宮沢りえは、まさにそんな狂おしい程の母性を抱える行動力の塊だけど、同年代の自分としては、未だに彼女がスーパーアイドルだった頃の面影がどうしてもチラついてしまい、中々しっくりとこない。

おまけに、生活感の全くない銭湯で染み一つない横顔で奮闘する彼女の芝居っぷりに、母親のイメージそのものの実感が湧いてこなかったけど、何気なく彼女の口から零れる一つの台詞が、その違和感を吹き飛ばした。

 

余命いくばくもない彼女は、“”が好きだという。

緑でも青でも白でも暖かな黄色でもなく、情熱の赤色が。。

 

この、ピークをとうに過ぎた上、オダギリジョー演じるダメ夫の中途半端な優しさに翻弄される妻でもありながら、やつれた背筋を必死に凛と伸ばそうとする彼女の姿に、どうしても嫌悪感を感じる人もいるだろう。

だけど、妻や母である前に、彼女がその最期に、どうしても強く気高い女であろうとした秘密が見えてくると、その詩情は何倍にも広がっていく。

 

母親や妻、或いは子供達目線からの一方的な見方では若干わかりにくいけど、陰湿ないじめを受けている長女や、本当の母親への気持ちが消せない末娘に、彼女が敢えて強く接している時の言葉は、全て彼女が自分自身に言い聞かせてきた台詞だ。

或いは、サービスエリアで出逢う、自分探しの旅をする優男に投げかける罵声でも。。

 

安澄の本当の母親である君江に思い切りビンタをかますのは、実際は誰の母にもなれぬまま、短い生涯を全うせざるを得ないジレンマを抱えた、一人の女としてのホンネなんだろう。

 

長い銭湯の休業明けに、その煙突から赤い煙が立ち昇るラストシーンは、どこか猟奇的な香りも漂い賛否両論の声が飛び交うのだろうけど、行き場のない情動を深く掘下げてみたかった監督の執念と、激しい情念の入り混じった宮沢りえ本人の生き様とが重なり合ってきてしまい、青空を只管に彷徨い続ける、ちょっとメランコリックなさみしい生きものの姿にも見えた。

 

「湯を沸かすほどの熱い愛」
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