マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『天国の口、終りの楽園。』の私的な感想―大人へと成長する全ての少年達へ―

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Y tu mamá también/2001(メキシコ)/105分
監督/脚本:アルフォンソ・キュアロン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、マリベル・ベルドゥ他

 嘘で固めた心

昔の若者は、みんなズルかった。

恋愛に、友情に、両親への感謝を伝える時でさえも。

 

漠然と焦る心をひた隠しにし、どうでもいい小さな嘘をつきまくって、張り詰めた自分の気持ちをそっと塗り固める。

 

SEXはそんな万人の若者にとっての息抜きだ。

愛だの恋だの、細かい事を考えていても始まらない。

 

そうして人と触れ合う事、慰め合う事、やがてその相手に強く求められるようになる瞬間を経て、なんだかよくわからない自信が生まれ、少しずつ背伸びをした自分の鎧を脱ぎ捨てていく。。

 

ROMA/ローマ』の躍進で、一躍脚光を浴びたアルフォンソ・キュアロン監督の原点とも言えるこの映画は、そんな若者の性欲と隣り合わせの脆い心模様が、劇中の至る処から迸る。

それを若気の至りと一言で片付けてしまわずに、感傷的な揺らぎの中で生まれる本当の自由が、十代の若者だけの特権に見えなくなっていった時、きっと、この映画の包み込むような優しさが、理解できるようになるのかもしれない。 

 

 

 

あらすじ

それぞれのガールフレンドがヨーロッパへの家族旅行へと旅立ち、性欲を持て余すフリオとテノッチ。
二人は高校の卒業と共に、進学や親との蟠りを抱え、毎日を酒やマリファナで遊び呆ける日々を過ごす。
やがて有力政治家の息子でもあるテノッチは、大統領まで出席する盛大なパーティーで、従妹の婚約者だった女性ルイサと出逢う。
フリオとテノッチは、競い合うように彼女の気を引こうと努め、やがて三人は「天国の口(Boca del cielo)」という存在しないビーチへ向けてのロードトリップへと向かうが・・・

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 大人の女の瑕

男は少年から大人へと変わる過渡期に、大概年上の女に惹かれる。

それは恋でも愛でもなく、ただしんどい現実を忘れる為の、ある種の逃避癖なんて呼べそうだ。

 

原題の“Y tu mamá también”は、直訳すれば「お前の母ちゃんも・・」なんて意味深なフレーズだけど、性欲全開で悪態をついていたあの頃の少年心を思い出せば、その意味もなんとなくわかるはず。。

そんな風にして退屈に苛立ち、或いは、目に見えない友情の終わりに漠然と怯えるフリオとテノッチは、お互いのそんな柔らかい部分をひた隠しにする為にも、メキシコ人からはちょっとだけハイソに見えるスペイン人のルイサに、競って他愛もないアピールをする。

 

青春とは、見栄と不安とが入り混じった虚構のようなもの。

そんなものを男が何時までも忘れられないのは、そこに苦みを乗り越える事で手に入れた、余裕があるから。

 

けれどこの映画の年上の女ルイサの前では、その過程の些細な嘘、暗黙の絆、男同士のルールなんてものが、脆くもあっけなく崩れ去る。

劇中で唐突に入ってくるナレーションは、そんな少年心と同化した視聴者のひんやりとした痛みを、少しだけ中和してくれるけど、ドキュメント映像の様に挟み込まれるメキシコの貧困層の実態が映し出される度に、映画の中の少年達と全く同じように、夢から覚めていきそうな感覚に陥ってしまうのは、自分だけだろうか?

 

やがて、キュアロン監督お得意の長回しで魅せる、開放的なロードムービーの情景の果てに、澄みきった海が広がる。

 

この辿り着いた夢の終着駅で女が決める覚悟と、それに促されるままぬるま湯から放り出された少年達の理屈を超えた気づきを、きっと成長と呼ぶんだろう。

 

ナルコス』で主演を務めたディエゴ・ルナのキュートなヒップと、幼い少年心を搔き乱す幻想的な女の艶やかさは、いやという程たっぷり堪能できるけど、冒頭から少女達の激しくも生々し喘ぎ声がいきなり響き渡るので、鑑賞の際はくれぐれもご注意を。。

 

それでも、ラストの衝撃の真実を突きつけられれば、ただの淡いノスタルジー感なんてものだけじゃなく、誰もが思い出の奥底に封じ込めたあの時の彼女の事を、きっと直ぐに思い出す事が出来るだろう。

 

「天国の口、終りの楽園。」
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