マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『私の少女』の私的な感想―社会に抗うオンナたちの生き様―

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도희야/2016(日本)/119分
監督・脚本:チョン・ジュリ
出演:ペ・ドゥナ、キム・セロン、ソン・セビョク

 韓国社会の田舎の現実

韓国映画の単純なストーリー展開には、あまり理解できない描写が結構ある。

主人公は何かしらの因果を抱え、人は直ぐに裏切り、何よりもあっという間に人が殺されていく。

そんな歴然とした勧善懲悪の中で、安易なお涙頂戴シーンなんかが出てきてしまうとやっぱりどうしても白けてしまう。

そんな愚痴を所かまわず漏らしていた自分に、

「最近のペ・ドゥナが出る映画から見とけば大体安全」

なんてアドバイスを最近り知り合った韓国在住の女性から頂いたので、とりあえず手を出してみたがなるほど納得。

モデル上がりだが韓国版のリングで演じた貞子からスクリーンデビューを果たした彼女の度量のおかげか、韓流ドラマお決まりの絵に描いたようなシリアスでオーバーな演技は殆ど見られない。

2014年のカンヌ国際映画祭に「ある視点」部門に正式出品しただけの事もあり、レタッチも少なく斜陽がかった風景の陰陽は中々に見事で、日本の田舎の原風景の様な懐かしさも込み上げてくる。

それでも劇中のあまりの苛烈な人物設定に少々疑問を感じてしまい、韓国在住の彼女に聞いてみたら、あっさりと、

「済州島(チェジュとう)あたりじゃ今でも全然あのまんまよ」

なんて見事に切り返されてしまい、この映画の根本にある韓国社会に根強く残る差別意識に返す言葉が見当たらなくなってしまう。

 

 

 

―――小さな漁村の警察署長としてやってきたヨンナム。
孤独に苛まれながらも、彼女は持ち前の正義感からその村に蔓延る問題に着任早々目を向け始めていた。 
そんな折、同級生からのいじめにあっていた14歳の少女・ドヒに彼女は偶然に出逢う。
ドヒは学校ではもちろん、母親が蒸発した家庭でも父親のヨンハから虐待を受けていたが、村の唯一の働き手でもある彼の機嫌を損なわぬ様、村人はその現実からも目を背け続けている。 

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 異才を放つ3人の女

村の偏見と少女の過酷な虐待が一際クローズアップされたこの作品だが、この映画を観ると視聴者の視点はどうしても虐待の方へと向いてしまうだろう。

それは撮影当時、設定と同じ若干14歳でありながら、オトナ顔負けの異才を放つキム・セロンの怪演


近年の日本では大人が望む子供を見事に演じきる子役が後を絶たないが、彼女の演技はそんな生易しいもんじゃない。

設定とはいえ、病的なまでに倒錯していくドヒは、劇中で笑顔を振りまいているその瞳の奥にさえしっかりと闇を滲ませている。

“東洋のダコタ・ファニング?”“韓国版の芦田愛菜?”なんてネット上では呼ばれているようだけど、私的にはそんなふたりの演技など足元にも及ばない程、彼女の魅力は異質だ。

 

更にそんな彼女に触発されてか、陰鬱な韓国映画から近年明らかに足が遠のいていたペ・ドゥナも、この作品ではようやくその輝きを取り戻しはじめた様に感じられてくる。

 

けれどこの作品の面白味が、そんな二人の化学反応だけというには、やっぱり奇怪すぎる。

 

ドゥナは2014年のこの映画のインタビューで、脚本を最初に読んで正に衝動的に出演をする選択をしたそうだが、彼女の感覚は正しい。

 

ふたりの女優の躍動がここまで注目を浴びたのはやっぱりその脚本のおかげだ。

 

少々ネタバレしてしまえば、劇中のヨンナムは同性愛者が故の偏見から孤独を感じこの村へと左遷されて辿り着く。

一方のドヒは村で虐げられはいるものの、孤独ではない。

ちょっと誤解を受けてしまいそうなので補足しておくと、彼女は虐待を受ける事でそこにきちんと存在している。

 

つまり、彼女は村の生贄なのだ。

 

それを正義感から救おうとするヨンナムも、実は何度も見放そうとする。

 

しかし、彼女にはそれが出来ない。

それは虐げられた人間の末路を彼女が一番よく知っていたからだ。

劇中大勢の年上の部下を抱えながらそれでも気丈に振舞っていたヨンナムは、アルコールの助けを借りないと眠りに付けない程に、実は心も体も弱りきっている。

 

そんな彼女に生きる望みを与えたのが、ドヒの存在だろう。

それは母性でも、友情でも、同性愛でさえもない。

 

厭世的だが、根っこのところでシンパシーを互いに感じとってしまった、言い換えればのようなものなのか?

 

デビュー作にしてそんなあまりに奥深いテーマを、男尊女卑の現実や難民問題、更には簡単には解決出来そうにもない限界集落の実態まで絡ませてきた女流監督チョン・ジュリは、自分たちの口先だけの問題定義などでは到底太刀打ちさえできない、差別に抗って生きる人間達を無視し続ける社会に辛辣なプロパガンダを発信してきたのかもしれない。

 

『私の少女』
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