マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『悪い女』の私的な感想―女たちが辿り着いた友情の先にあるもの―

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파란 대문/1998(韓国)/101分
監督・脚本:キム・ギドク
出演:イ・ジウン、イ・ヘウン

 奥深い意味が込められた邦題

『龍が如く』のPS4版を体験したかのようなPOV映画『悪女/AKUJO』ですっかり三半規管をおかしくされ、VR世代の若者たちとの距離を痛感してしまった今日この頃。。

しかし大手ビデオレンタルショップの検索サイトでは、何故かこっちの作品がヒットしてしまう模様。

なので天邪鬼な自分としては、今回は皆さんが見たがっている方ではない、本当の“悪い女”の紹介をしてみます。

 

奇才キム・ギドク監督が後にヒットさせた『悪い男』と相対的にこの邦題がつけられた
映画の本当の原題は『青い門』


確かに劇中でも印象的にこの門は写されていますが、相乗効果を狙った配給会社の思惑を差し引いても、中々にセンスのいいネーミングです。

 

主役は同じ屋根の下で暮らす女子大生と売春婦

 

響きだけを聴くとどうも淫猥な印象を持たれてしまいそうですが、描かれているのは『万引き家族』同様、至って真面目な韓国の貧困層の現実

底辺を這いずり回る人間を圧倒的な厭世観で締めくくる事が多い同監督にしては珍しく、この映画のラストシーンではどこか希望を感じさせてきます。

   

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―――寂れた港町の民宿の娘イ・ヘウン演じるヘミはどこにでもいる大学生。
貧乏な実家を恥ずかしく思い、やりたいざかりの彼氏とは少し距離を置いている。
そんな彼らの元へソウルの売春宿から追い出されたイ・ジウン演じるジナがやってくる。
家族は生活の為、彼女に売春をさせながら住み込みで生活を共にするが、世間体を気にするヘミには受け入れられず・・
彼女は自分の性に対するコンプレックスからヘミを軽蔑し辛くあたりだすが、ジナの日常を見つめ続けているうちに、彼女の心境は少しずつ変化し始めていく。

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 悪い女の正体 

脇の俳優陣の演技が余りにお粗末過ぎてちょっとしらけてしまう節はありますが、それでもこの澱んだ空気の中でそれぞれもがいているふたりの女を見ると、何処か愛おしくなります。

しかし邦題のタイトルになったこの“悪い女”とは、誰を指しているのでしょうか?

売春をしているジナか?
それを軽蔑し疎ましく思うヘミか?
或いはそんなふたりの対立を知りながらも、家計の為、目をつぶっているヘミの母親なのか?

貧困問題への定義というほど大袈裟なわけではないですが、うらぶれた底辺の彼らの生活を見ていると、やはり何か感慨深いものがあります。

 

全く別の世界の住人のはずのジナとヘミは、奇しくも同じ23歳

 

ジナが思う普通の家族への憧れ、ヘミが思う貧乏に対する嫌悪感

 

ふたりの溝は物語の中盤まで一見深まっていくかのように見えますが、それは周りの男たちのジナを見る視線によって変化していきます。

ヘミの父親は娘と同じ年の彼女と一切口をきかず、娼婦として彼女を手籠めにします。

ヘミの弟は思春期の衝動を抑える事ができず、ジナに関係を迫ります。

・・振り返ってみると、なんだか男の性欲が全ての歪みの原因に感じてきてしまいますが、何よりそんな彼らをすべて受け止めた上で、漂う様に街を彷徨うジナの様子はやけに美しく見えます。

 

浜辺に埋まっているジナの夢をヘミが見た時、彼女は何を感じたのでしょうか?

そんな言い様のない苦しみの中で、ヘミはやがて何かを悟っていきます。。

 

『悪い男』で描いた錯誤者を等身大の若者たちに複写し、村上龍の『限りなく透明に近いブルー』のナイーヴさと、綿矢りさの『インストール』の儚さを重ね合わせたような、水面に溶け込んでいく女たちの淡い願い。。

キムギドクの偏執的な性愛が色濃く映し出されている作品には違いないですが、垣間見える陰湿な社会背景を感じ取れると、何故か腑に落ちてしまう柔らかいファンタジーのようなドラマです。

 

『悪い女』TSUTAYAでレンタルできます。

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