mother!/2017(アメリカ)/121分
監督: ダーレン・アロノフスキー
主演:ジェニファー・ローレンス/ハビエル・バルデム、エド・ハリス、ミシェル・ファイファー
必ず見返したくなる宗教映画
伝説の恐怖映画『マーターズ』に対をなす宗教映画と言えるのかもしれない・・。
熱心なキリスト教徒でもないと、必ずもう一度見てみたくなるこの映画は、ジャンルに分けるとしても何と言っていいのか・・
サスペンス?スリラー?ホラー?オカルト?
とまあ、多分その全ての要素を含んでいて、メンドクサイのでウチのブログではもう敢えファンタジーでw
じゃないと、余りにこの映画に隠され裏のテーマがややこし過ぎて・・
ちなみに・・
今回のレビューは映画全体の完全なネタバレを含んでいますので、一度この映画をご覧になった方専用の感想です。
「まだ観てないけど興味がある!」方は、まずはこの予告編を観覧した上で、この映画を自分が本当に観れるかどうか今一度ご検討下さい。
―――緑豊かな自然に囲まれた郊外の一軒家。
詩人として生活をしている夫は、妻の献身的な愛のもと、スランプから脱却する為の創作意欲を模索している。
そんなある夜、彼らの家に突然やってくる見知らぬ男。
夫の熱狂的なファンだというその男を、彼は家に迎え入れるが、妻は動揺を隠しきれない。
やがてその男の妻から始まり、彼らの2人の息子、他の熱狂的なファンと、平穏だった家には次々と訪問者たちが増えていくのだが・・
”聖書”に準えた登場人物たち
まず初めに、この映画を観た人達が誰しも感じるであろう事は、その奇妙な登場人物達からくる不快感。
家の主人は夢想家で、それに付き従う妻は哀れにも戸惑い続けるばかり。。
更にその家にやってくる男の横暴さやだらしなさ、女のあつかましさやいやらしさ等、あらゆる気持ち悪さが詰め込まれています。
そして観客は眉を顰める事しかできず、そのあまりに難解なキャラクターはいったい何を伝えたかったのか?
コントラストを強め、手振れ感満載のステディカムで見せてくるそれらの登場人物は、実はその全て聖書の創世記に準えた寓喩で、それぞれを、
ジェニファー・ローレンス演じる主人公(母)=地球(大地)
ハビエル・バルデム演じる夫=創造主(創世記の初めに7日間で世界を創造した神、ヤハウェ)
エド・ハリス演じる訪問者の男=アダム(6日目に創造主が土から創り出した初めての男)
ミシェル・ファイファー演じる訪問者の妻=イヴ(アダムの肋骨から作られた初めての女)
二人の息子の兄=カイン(創世記に登場するアダム達の息子、人類最初の殺人者)
二人の息子の弟=アベル(創世記に登場するアダム達の息子、人類最初の被害者)
ジェニファー・ローレンスが産み落とす赤子=イエス=キリスト(創造主)
家に押し寄せる群衆=人類(キリスト教信者)
郊外の家=世界(エデンの園)
の象徴として描いています。
夫が大事に書斎に飾るクリスタルは、命の樹。
シンクを壊した訪問者達を追い出す描写には、ノアの箱舟(大洪水)。
ラストに妻が家を破壊された怒りに、地下のオイルタンクに火を点けるシーンはそのまま、ヨハネの黙示録におけるハルマゲドンのメタファー。
※妻が飲む黄色い飲み物に関しては監督が明言を避けていますのでよく分かりませんが、賢者の石の存在を象徴的に暗喩しているのではないかというご指摘を頂きました。(2018/5/15追記)
つまりこの物語は、創世記をサスペンス調の現代版にアレンジした聖書訳そのものであり、まずこの時点で相当厄介。。
更に・・
劇中には、苛烈な暴行シーンや赤子の惨殺描写、果てにはその赤子をモチーフにしたカニバリズムの異様な光景まで描かれていて、2018年2月には日本で公開予定だったこの作品は、そのあまりの残酷描写によって結局、公開が中止にされてしまっています。
監督の真意、「ある特定の人たち」とは?
ロマン・ポランスキー監督へのオマージュと、スティーブン・キング原作作品に触発されたようなスタイルで、知らずに観るとサイコスリラー的展開をどうしても期待してしまうこの物語は、ネタバレしてしまえば聖書に準えた繰り返される人類の愚行を寓喩的に表現した作品なんですが、私的には腑に落ちない点も随分ありました。
・・自分は、キリスト教に対しての信仰心は全くありませんが・・
まず創造主に準えた夫が、アダムとイブを具現化した訪問者たちの幸せそうな様子に触発され、地球である妻との間に子供を創ろうとする描写がありますが、これはキリスト教信者からすれば、真っ先に批判の対象になったシーンなような気がします。
クリスチャニティにおいては、創造主は人間を自分を崇拝し指導を受けるべきものとして造っているので、その逆の概念自体は存在しません。
更に、聖書を準えるのであれば必ず登場するはずの悪魔の存在がどうにも微妙。
純朴な妻(地球)に、辛辣なコトバを投げかける訪問者の妻(イヴ)の存在が、旧約聖書でいうトコロの、イヴを誘惑する蛇(悪魔)そのものに見えてしまうのも、フェミニストからの批判を安易に助長してしまっています。
そして一番気になったのは、、
監督がこの映画の上映時において言及した、
「この映画は一般の観客に向けて作られたわけではなく、ある特定の人たちへ向けたものである」
という言葉。。
・・ナニソレ?プロパガンダのつもり・・?
万人に向けたエンターテイメントな映画産業に於いて、特定の人たちに向けてという意志の裏には、どう考えても作為的な忖度が見え隠れしていて・・
wikipedia上での記述なのでどこまでホンネかわかりませんが、
どうも逃げ腰に感じます。
上映後の監督のインタビューではこの映画のテーマを、「気候変動と環境破壊における人類の功罪」としているらしいですが、・・なんかすり替えていませんか?
ユダヤ教保守派の家庭に生まれ育ち、ハーバードで社会人類学にまで視野を広げた彼が、純粋なただのエコロジストだとはどうしても思えません。
ある程度聖書の知識がある人間からすれば、この映画が聖書に於ける創世記を暗喩しているのは明らかなので、そんな誤魔化しは通用しないと思うんですが・・
物語の中盤以降から怒涛のごとく家に押し寄せてくる群衆(人類)の醜態も踏まえ、どうせなら、キリスト教文化における大衆心理の中での人類の愚行と言えるくらいしっかり描いてもらいたかったんですが。
公開中止、日本人に求められるモノ
とはいえ、圧巻の体を張った演技で観客を魅了してくれたジェニファー・ローレンスや、エド・ハリス、ミシェル・ファイファーのような名優達がこぞって怪演をしてくれたこの映画が、日本では公開中止というのはどうにも情けない気がします。
惨殺や暴行シーンにうるさい映倫団体等の圧力が、配給元のパラマウント・ピクチャーズの意向に大きく影響を及ぼしたのは火を見るより明らかですが、何時までこんな過保護な傾向が続いていくんでしょうか?
無宗教で、勤勉だが想像力に欠けている国風。
トランプ政権以降、世界はとっくに保守派に傾いてきているというのに、中国や北朝鮮の脅威の前で、自立した意思を持てない日本人がいつまで自主を保っていけるのか正直微妙な気がしてしまいます。
宗教的な側面からは多少問題のあるこの作品ですが、そのメッセージ性の強さは近年の映画の中では抜きん出てダントツ。
そろそろドラスティックにこの映画の本質を議論し合うくらいの改革があってもいいような気がします。
アロノフスキー監督の方便を再考してみる事も踏まえ、世界基準に疎い自分達日本人が、この映画を通じて映像表現の在り方を醸成するキッカケになってもらう事を強く望みます。
聖書に準えながらも対照的な人間愛を描いた作品はコチラ
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