マリブのブログ

ニ匹ののら猫と一緒に随時三匹の飼い主を募集中の元帰国子女。。オススメの映画やドラマの感想を徒然に紹介しています。

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映画『検察側の罪人』の私的な感想―キムタクの原点回帰と本当の罪人―(ネタバレあり)



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検察側の罪人/2018(日本)/123分
監督・脚本:原田 眞人/原作:雫井 脩介
主演:木村 拓哉、二宮 和也/吉高 由里子、平 岳大、大倉 孝二、酒向 芳、松重 豊、山崎 努

 エポックメイキングなキムタクの熱演 

何とも言えない虚脱感に襲われた映画でした。

それが、映画自体の社会批判からなのか、監督の狂奔ぶりからなのか、製作側の悪意からなのか・・・

時勢を反映した映画作りは『万引き家族』のヒットでも証明された様に、観客に深い問題定義と想像力を掻き立てさせられます。

しかしこの作品においては、それが全く効果を表さず、むしろ邪推させられてしまうようなそんな倦怠感。。

著者が映像業界の末輩に席を置いている以上、当ブログで紹介する作品自体の批判は極力抑えてきたつもりですが、作り手側に邪心や安易な忖度があるとするのならば、それもそろそろ限界かもしれません。。。

それでも同年代のカリスマの象徴でもあるキムタクの華麗なる復活と、次世代を担うニノの圧巻の迫力ある演技はかなり見物だったので、今回はジャニーズ嫌いの著者の目線での初の作品批判を問答無用で綴っていきたいと思います。

・・『mother!』『哭声/コクソン』の記事でした映画批判は一旦お忘れください。。。

そう言えば、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』でも十分批判をしてきた様な気も・・・

www.youtube.com

  

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―――エリート街道をひた走る東京地検の検事・最上の元に後輩の沖野が配属されてきたのは、彼が新人研修で最上に憧れを抱き始めてから4年後の事。
老夫婦殺害事件の案件を最上から任された沖野は、彼の期待に応えようと必死に奮闘する。
しかし当該事件の容疑者の中の一人に、23年前に時効が成立した“荒川女子高生殺害事件”の捜査線上に最後まで名前が上がっていた男・松倉重生がリストアップされていた事により、最上の態度は急変。
その事件で殺害された少女は最上が学生寮で過ごしていた大学生当時、彼を一番慕っていた管理人夫妻の一人娘。。
最上は下されなかった正義の鉄槌を下すべく松倉に異様な執着を見せ始めるが、事情を知らない沖野とは徐々に心の距離が遠ざかっていく。
やがて法の枠を超えてまで暴走は始める最上とは対照的に、沖野は自らが信じていた正義を追求すべく最上と対峙する決断を下す・・ 

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 ブレているテーマ性

あらすじで書いた通り、この映画の主軸はそれぞれの持つ正義の解釈です。

検察という法の番人が持つ圧倒的な権力は、個人の主観や影響力を鑑みて判断するようになってしまえば形骸化していきます。

そんな中、真実の追求と正当な罪過を普遍的に見極め続けなければならない彼らに、もし法で裁けない正義があるとするのならば・・

 

『三度目の殺人』でも描いてきた司法の闇は、まず法律は人の思いを推し量る事が出来ない事にあります。

故にこの手の問題にメスを入れる作品には、必然的に人物の心の機微を描くカットが不可欠。

王道で言えば、、

例えば、2人の登場人物が対峙するシーンでのサイズを変えていくカットバックや、台詞をしゃべらないシーンで尺を使って無言で訴えかける表現の仕方。

或いは実景にそれぞれの心象を投影させ、比喩的に表したりするのも結構効果的です。

しかし『日本のいちばん長い日』あたりでは、揺れ動く時代の中で徐々に移り変わる歴史上の登場人物の思惑を上手く伝えていたはずの同監督は、この作品では殆どその手の演出の痕跡が見受けられません。

そればかりか、あまりにも多い情報量の台詞を互いに被せてしまっている為、知識の薄い観客はまったくの置いてけぼり状態。

恋愛要素を描くのが苦手なのか、最上と殺害された高校生の由季、沖野と彼の事務次官・橘との信頼関係も大分端折られている為、殆ど理解出来ません。

更に気分が悪いのは、ただでさえ感情の起伏が少ない司法界の登場人物たちが時折見せる激情を、間を取ってきちんとフィックスの画(固定されたアングルやサイズ)で見せず、その描写の表現方法も何故か流動的。

 

ネット上ではキムタクやニノの熱演を慮った上で、余りに難解な原田監督の演出方法に困惑する人の声が後を絶ちませんが、それも至極当然の結果でしょう。

監督が織り交ぜたかった社会風刺自体も、キムタクの持つ信念へのこじつけの様に描かれてしまい、彼らが貫こうとする正義そのものが大分ブレてしまっています。

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 情報量が多過ぎた社会風刺

思い返せば『突入せよ! あさま山荘事件』『クライマーズ・ハイ』等でも、扱う題材の切り口はいいのに何故か心に響かない原田監督の悪癖は、その膨大な量の知識を映像上ですべてひけらかせてしまうトコロ。

前章で述べた彼の社会風刺も、今回の作品では物語のメインテーマと全く関係なく盛り込まれており、そのあまりの乱雑で悪意のある演出には眉を潜めてしまいます。

まずは、

政治家特有の打算的な夫婦生活をイメージさせる主人公・最上の親友で衆議院議員の丹野の家庭環境とその背景。

ネオナチ団体に傾倒していく丹野の妻の倒錯ぶりは、憲法を改正してまで戦争に参加していこうとする安倍政権や国民全体を強く憂慮しての演出でしょうが、丹野の葬儀で乱舞する大駱駝艦を彷彿とさせる演出も含め、酷く打算的。

政治を宗教に準え描写するナンセンスさは、踏み込んで考えると監督自身の妄信的な悪癖を見事に反映させてしまっています。

 

更に、、

吉高由里子演じる沖野の事務次官・の立ち位置が何とも微妙。

検察の実態を暴露しようとするルポライターとして潜入取材中の橘は、巷で取り上げられる風潮が強まりつつある冤罪を断罪したいのか、被疑者の家族を偏見から救いたいのかその主旨自体が説明不足過ぎて全く彼女の思いが伝わってきません。

それぞれのモチーフも和歌山毒物カレー事件麻原元死刑囚の四女の苦悩にヒントを得ている事は明らかですが、どちらも真偽が定かでない事象を扱っている為、ワンセンテンスで訴えかけるには大分無理のある展開。

 

そして極めつけは、、、

作品の随所に織り交ぜてくる“インパール作戦”や“白骨街道”いう聴きなれないフレーズ。

インパール作戦とは

太平洋戦争中、日本の南方軍が昭和19(1944)年3月から6月にかけてインド北東部の都市インパールを目指してビルマ北部で展開された作戦。
連合国から中国への補給経路を断つ目的で行われたこの作戦では、行軍自体の補給線を軽視しすぎた為、多くの犠牲者を出して歴史的敗北を喫する。
彼らは無謀な作戦とイギリス軍の総攻撃に晒され、ジャングル内でマラリア等の感染病や飢餓により死亡した兵隊たちの無数の屍が連なる退路は白骨街道と呼ばれた。

wikipediaより抜粋

 

通常、悍ましさを醸し出すキラーフレーズはサスペンスの性質上全然ウェルカムなはずなのに、どうも釈然としないその理由は、

 

世代的にも全くリンクしていないこの事象を、最上の暴走のバックボーンとして描いてしまっている事。

 

最上の祖父がインパール作戦からの奇跡的な生還者だという裏設定と、監督自身の父親の戦争経験からの影響を考慮したとしても、それ、正義を貫く大義名分になるんでしょうか?

この死屍累々の惨劇を乗り越えて到達した彼の祖父の境地は、言ってしまえば生ぬるい司法に守られた最上のカタストロフィレベルでは到底及びません。

安易な歴史上の事象に例える比喩はその戦没者達への冒涜にも感じ、最上が祖父に抱く敬意を感じられる描写さえもないままでは、彼の迷走していく正義自体も随分安っぽいモノに感じてしまいます。
 

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 作為的なジャニーズの忖度

ここまででは、よくある老害監督の迷走作品で済む話ですが、著者が憤りを感じたのは、そんな中でも必死にもがいているキムタクの熱演

製作側の意図的な忖度でW主演と謳われたこの作品の本当の主人公は、ラストカットの二人の立ち位置からしても察しられる通り、実は二宮和也のみです。

I女史が抜けた事により均衡が崩れたジャニーズのパワーバランスの影響で、キムタクが演じたのは真実を追求し続けるニノの当て馬としての完全なるダークヒーロー。

しかしそのポジションにおもねるわけではなく、『HERO』の久利生やアイドル木村拓哉をかなぐり捨てて挑んだ彼の無骨で哀愁漂う新鮮さ。。

『ロンバケ』世代で育った自分にとっては、彼が勧善懲悪的な主役を演じる事に少々疑問を感じていた為か、キムタクがいよいよ名助演としての新境地に辿り着き始めた気さえしてきます。

 

それは青春時代の思い出のドラマだった『若者のすべて』のちょっと斜に構えた武志役の頃の様に。。

 

最上が松倉を追い詰めていく際に上司に宥められている脇で、けたたましく声を荒げ叫んでいる女性検察官を励ます彼の台詞は、監督が伝えたかった難解なイデオロギーに対するシュプレヒコールそのもの。

冒頭で降りしきる雨の中、「雨に洗い流される罪などはない」なんて刹那にアドリブを入れてくる彼の役作りに対する意気込みには、これまでにないキムタクの妙味がたっぷり詰まっています。

松倉の取り調べを聴いている時の最上の揺れ動く視線や、弓岡を殺害してしまった時の狼狽ぶりにも、私的には久しぶりに見たカッコ悪いキムタクの名演だった気がしていますが、皆さんはどう感じたのでしょうか?

 

SMAP解散騒動時のダークなイメージそのまま、劇中の倒錯していく最上の設定に観客がオーバーラップして見えてしまうのを敢えて受け止め、独り善がりな監督の演出する現場で大した見せ場もないまま、孤軍奮闘していた彼の様子が目に浮かびます。

それなのに、、

製作委員会にまで名を連ねている本来そんな彼を守るべきはずの所属事務所自体が、最上役の妻子にリアルにも見えるキャスティングを了承してきた裏には、低俗な宣伝効果を助長する意図的な悪意さえ感じてきます。

 

重厚な質感の装飾と錚々たる名バイプレイヤー達に支えられている中、キムタクが持つ温度がいつも見るテレビの枠の中より大分高かった気が終始していました。

 

『検察側の証人』の上映スケジュールはコチラで確認できます。

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