Toivon tuolla puolen/2017(フィンランド・ドイツ)/98分
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン、イルッカ・コイヴラ
小津映画に通じる清貧さ
師走を迎えるとなんだか無性に忙しい。
映画ブログにかまけて仕事をサボっていたツケが回ってきたのか?
或いは業界特有の年末に向けての撮影ラッシュの為か・・?
この作品は随分前にチェックしていたのだが、寝落ちを繰り返す事4回、観賞し終わる迄ゆうに1ヶ月以上もかかってしまった。
その理由は・・
この映画はとにかく静かすぎる。。。
それは『サーミの血』等で見てとれる北欧ならではの荒涼とした自然風景なわけでも、物憂げな音楽のわけでもなく、更にはフィン語とアラビックが飛び交う難解な言語でもなく、芝居そのものの清貧さ。
大仰な演技や科白回しなどを根こそぎ取り払ったその演出は潔くもあるが、若干眠たくなる。。
それでも見終わった後のあの身が引き締まるような感覚は、監督のカリウスマキが敬愛してやまない日本の小津安二郎作品にも通じる謙虚さが作品のどこかに醸成されているのだろうか?
芝居の所々に残された奇妙な間といい、人物の位置関係を横から丁寧にみせるカメラアングルといい、どうもその感覚は流動的なショットの多いヨーロッパ映画とは一線を画している。
とはいえ大半がフィックスの画で撮られた構図の為、集中力を欠いている時に見てしまうときっと自主映画の様な陳腐さを感じてしまうだろう。
けれどそれこそが人間模様を俯瞰で観る事を求めた監督の細やかな希望。
そんな作り手側の微かなメッセージを見落とさない為にも、この映画を観る際は十分に体力を温存した上で向き合ってもらいたい。
―――北欧の都市・ヘルシンキ。
貨物船に身を隠しながら母国シリアの内戦から逃れやってきたカーリド。
彼は生き別れた妹の安否を気にかけながらも、難民申請をしながら職を探そうとする。
一方、酒浸りの妻に愛想を尽かせた男、ヴィクストロムは、財産を売り払った金で大博打。
運よく大金を手に入れた彼は小さなレストランを買い取り、慎ましく暮らしていこうとする。
カーリドは結局、難民申請が降りずに途方に暮れるが、人々はそんな彼を見捨てない。
看護婦の計らいで移民局からの脱走を図った彼が、ネオナチグループに付け狙われながらもようやくたどり着いたのは、ヴィクストロムが経営するレストランの店前だった。
難民問題に取り組む逆風の中で・・
独特なテンポで難民問題を取り扱うアキ・カウリスマキ監督は、その母国フィンランドの確立された社会秩序に時折風刺を利かせながらも、本来の人間の持つ優しさをこの作品にひっそりと滲ませ、それでいてコミカル。
監督の意図により登場人物は殆ど無機質な演技を続けているが、その柔らかなトーンの台詞で語られる人間臭さ、或いは一部の民衆の倒錯具合は、邪推せずに胸にストンとおちてくる。
しかし残念な事に、、
カンヌ国際映画祭でプレミア上映された『ル・アーヴルの靴みがき』から続く難民問題三部作の第二弾としてこの作品を世に送り出したカリウスマキ監督は、上映から3ヶ月も経たないうちに、その計画をとん挫させてしまった。
更に彼はこの作品を最後に映画監督業自体からも引退する事を仄めかしているようだが、リテラシーの高い北欧の地からようやく届いた彼の声はこれで永遠に途絶えてしまうのだろうか?
そこで気になってくるのがこの作品のタイトル。
世界でも指折りの難解な言語の一つとされるフィン語で『Toivon tuolla puolen』と題された原題は、googleで翻訳してみると『私はそれを超えて願う』。
英題でも『The Other Side of Hope』(The Other Side自体には、反対側、逆側、死後の世界のような意味合いも含まれる)と訳され、細かいニュアンスではあるが、邦題の『希望のかなた』よりも若干厭世観が漂っている点が気にかかる。
いよいよ大国の本音をぶちまけてきたトランプの台頭により、排他的なナショナリズムを掲げる風潮が日増しにヨーロッパ全土にも及んでいく中、監督が顧みた一抹の寂しさは正に風前の灯。
あまりにも想像力を欠いた失言で人気を急降下させたフランスのマクロンや、大胆な移民政策を打ち出しつつもポピュリズムの台頭を招いてしまったドイツのメルケル等、ユーロ圏における外国人恐怖症は日々拡大の一途を辿っている。
そんな中一段と民度が高かったはずのフィンランドにおいても、いよいよ逆風が吹いてきた事によって監督がこのデリケートなテーマに対する作品作りの中止発表を吐き出してしまった事は否めないが、原題のとおり、この作品が鬱屈した国民感情の中でも広くそれを越えて誰かに友愛の感情を思い起こされる事を強く願う。
「希望のかなた」は
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