マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『テルマ』の私的な感想―ノルウェーのキリスト教圏で覚醒する少女の目覚め―

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Thelma/2017(ノルウェー)/116分
監督:ヨアキム・トリアー
出演:エイリ・ハーボー、カヤ・ウィルキンス

 宗教からの超自然主義

正直、難解な映像美と宗教哲学を追求するラース・フォン・トリアーの系譜をなぞった作品はあまり得意ではないが、信仰心の薄い日本人にとってこの映画はどの様に写るのだろう?

早々にハリウッドでのリメイク化も決定したこの作品の監督・ヨアキム・トリアーは、『アンチクライスト』あたりで痛烈にキリスト教義を皮肉った奇才監督を叔父に持つコペンハーゲン生まれの新進気鋭監督だが、あまりにマニアックな路線で独自の感性を追求し続ける叔父の倒錯具合から比べれば、この作品のテイストは大分マイルドに感じる。

それでも聖書上での解釈的には悪とされる蛇や烏をモチーフに、一部の閉鎖的な社会に取り残されたキリスト教信者達の情動や危うさを、くっきり浮かび上がらせてくれた事は賞賛に値するだろう。

彼の繊細なカメラワークは言うに及ばず、それは北欧の寒々しいロケーションとも相まって果てしない寂寥感を感じさせる。

そんな中でも少女の成長と宗教的にタブー視されている超能力の存在を上手く融合させてきたあたりはなんとも前衛的だ。

そして正に籠の中の鳥状態で育ってきた少女が持ち合わせるその破壊的なエスプリは、神か悪魔かわからない超自然学的な新人類の到来を予期させる。

 

 

 

 

ノルウェーの田舎町で、信仰心が強く抑圧的な両親の下で育ったテルマには、なぜか幼い頃の記憶がなかった。そんな彼女がオスロの大学に通うため一人暮らしを始め、同級生の女性アンニャと初めての恋に落ちる。欲望や罪の意識に悩みながらも、奔放なアンニャに惹かれていくテルマ。しかし、やがてテルマは突然の発作に襲われるようになり、周囲で不可解な出来事が続発。そしてある日、アンニャがこつ然と姿を消してしまい……

映画.Comより抜粋

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 宗教観の違いで見る聖書訳とのギャップ

結論から言うと、この作品を観る際に宗教的な知識は全くいらない。

冒頭に彼女の父親が森の中で見つける鹿や、火や氷、或いは水中での描写に関しても、つまらない聖書上での解釈で見てしまってはちょっと野暮になる。


それぞれに暗示されているのは一見宗教的なメタファーに準えている様で、その全ては多感な時期の過敏な乙女心からの発露。

同性愛に目覚めていく少女の慟哭も、裏を返せば、幼少期から厳格な戒律に縛られ続けてきた彼女の戸惑いだ。

 

そんなメランコリーから解き放たれた少女の様子は、カトリックあたりからみれば正に悪魔の降臨劇さながらに写るだろうが、この宗教観の違いで見るギャップこそが、監督の狙いな様な気もしてくる。

 

ラストに覚醒した少女が手に入れた能力で、それまで自分を縛り付けてきた両親に対し異なる処遇を与えた事で、彼女は本当の意味での大人の女へと変化していく。

 

その様子は美しくもあるがやっぱりどこか儚げで、『RAW 少女の目覚め』に登場する少女のような血生臭さを僅かに匂わせつつも、遺伝子的疾患により殻に閉じこもっていく彼女とは対照的に、徐々に外に向かって自立していく少女の強い意思が感じ取れる。

好みで言えば大人が絶賛して見れるレベルの作品ではないが、抑圧された世界で苦しんでいるティーンエイジャー達には、きっとかなりの希望を与えてくれるだろう。

つまりこの作品はオカルトチックなホラーでもファンタジーでも通俗的なスリラー映画でさえもなく、凍えるような情景描写の中にあどけない女の刹那を余りあるほどに織り交ぜて描いた青春ドラマだ。

 

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