『ウォーキング・デッド』の映画化について
『TWD』のリック降板日のその日に舞い込んできたこのニュース。
巷では期待感が大きく先行していますが、私的には不安がだいぶ拭えません。
飽き性の自分が10年近くも見続けてきたドラマなので、その愛情もひとしお。
これまで海外ドラマに手を出すのを怯んでいた映画人たちを、何人このドラマに引きずり込んできたコトかw
なので今回はその積み上げられた期待感とプロ目線で感じる危惧も踏まえて、シーズン8から登場したヘリコプターの真意と、その迷走状態を分析してみます。
以下は『ウォーキングデッド』シーズン9第5話迄のネタバレを含んだ上での考察です。
まだご覧になってない方はご注意下さい。
- 『ウォーキング・デッド』の映画化について
- 感覚のズレからくる『TWD』の迷走
- チーフ コンテンツオフィサーに就任したギンプルの苦悩
- 連ドラから生まれるヒット映画の方程式
- ダリルの真意と業界の夢
- ヘリコプターの集団の展望
感覚のズレからくる『TWD』の迷走
まず映画化の発表を受けて喜び勇んでいる『TWD』ファンにのっけから注意してもらいたいのが、リックの行方。
第5話のエピソードを見返してもらえれば分かる通り、リックの生死は視聴者にネタバレしているだけで登場人物たちはそれぞれ、彼が死んだものと解釈しています。
6話以降の予告編映像を見てもそれは明確で、ミショーンはすっかりやさぐれ、キャロルは何故か白髪ロン毛状態、ダリルに至っては初期のモーガンよろしく森の中での隠遁生活に入っている模様。
この視聴者と登場人物の感覚のズレは、そのままモチベーションの低下へと繋がっていきます。
つまり、視聴者としてはリックが生き延びているのは明確なので、彼らにこれからどんな悲劇が襲おうとも、それは所詮茶番にしか見えなくなっていくという・・
ここで彼らの精神状態に感情移入出来ない感覚の不一致が生まれます。
すると次にどうなるのか?
それはこれまで親近感が湧いていた彼らから、急に現実味が失われていくという悲劇。
外見のデフォルメが進んでいく彼らの様子を見ても、それはどこかファンタジーの世界の住人の様。
『ゲーム・オブ・スローンズ』の様に、最初から空想世界の様子を描いているのであればそれも納得できますが、『ウォーキング・デッド』の醍醐味は、現実の世界から迷い込む可能性のある実生活の延長線上にある恐怖世界を描いているという点。
この、視聴者と製作側の認識のズレを放っておくと、どうなっていくのでしょうか?
チーフ コンテンツオフィサーに就任したギンプルの苦悩
ここでちょっと注目しておきたいのが、脚本家としてはまずまずの手腕を発揮していたスコット・ギンプルが今後のTWDシリーズのチーフコンテンツオフィサーに就任した点です。
日本ではあまり聴きなれないこの役職の主な職務をwikipediaから訳していくと、
①コンテンツ関連のトレンドと技術情報の最先端に居続ける
②コンテンツ戦略を、部署やメディアの種類の垣根を越えて執り行う
③コンテンツを制作し、編集するスタッフをマネジメントする
つまり、日本の映画界で言えば「製作総指揮」と同じ肩書。
ハリウッドではそのネームバリューで名前を貸すだけの著名監督も多いですが、彼のこれまでのキャリアから見ても、その意図は薄いでしょう。
更に、日本の映画界でも資金集めの為にここにクレジットされる方は多いですが、TWDの低迷を招いた張本人でもある彼に、そんなブランド力があるとは到底思えません。
そしてもう一つ危惧をしなければならないのは、この肩書が何故原作者であるロバート・カークマンではなくギンプルなのか、という点。
原作漫画のある作品において、この肩書は意外と重要で、近年の日本では『ドラゴンボール』の映画化に際し鳥山明にはこの肩書が与えられましたが、『クローズ・ZERO』の映画化に於いては、原作者の高橋ヒロシは原作としかクレジットされていません。
これは著作権料の支払い等において、前者はそのロイヤリティを映画化においても持つのに対し、後者は一定の支払いが済んでいる場合によっても変わってきますが、ここまでの大ヒットを遂げたこのシリーズから、原作者がそう易々と退く事はちょっと考えにくいでしょう。
つまり察するトコロ、、、
TWDシリーズはその全責任と権利がロバート・カークマンからスコット・ギンプルに移行し始めた上で、今後のヒットが総合的に見てあまり期待できないと判断されているという事。。
そんな重圧の中、スタッフの人事権やメディアの管理までをも全て一任された彼が、視聴者の動向に左右されない事等現実的に考えて不可能。
ここに悪しき連続ドラマの習性と、映画化においての障壁が見え隠れしています。
連ドラから生まれるヒット映画の方程式
前述したギンプルの焦りから、大分フライング気味に映画化の発表をした意図は最早明確になってきましたが、これは更に『TWD』シリーズに致命的な欠点を生み出してしまっています。
近年テレビドラマから派生し映画化した作品では、キムタク主演の『HERO』や水谷豊主演の『相棒』を除き、日本では低迷の一方。
二作品の共通点は、主役に絶大な固定ファンが付いている点とサスペンスが主軸になっている点ですが、TWDシリーズにこの要素は当てはまるでしょうか?
根強いファンが多い部分は共通するとしても、『ウォーキング・デッド』のヒットの理由には、実はミステリー要素は全く関係していません。
それは視聴者数の推移をみてもわかる通り、2014年から2015年にかけて放送されたシーズン5の初回エピソードで記録した1729万人がピーク。
このエピソードは、リック達がエイブラハムたちと合流して、ギャレスのターミナスから逃げだした回ですが、つまり視聴者がこのドラマに期待しているのは、崩壊した世界の中でも深めていく絆と団結力、更にそこから芽生える人間達の強い友情に焦点を置いている様に伺えます。
そんな中、ドラマから派生するヒット映画の定石ともいえるミステリー要素を、強引にTWDの映画化に盛り込んできたとしても、それは全くの見込み違い。
しかも、SNSの普及が進みネタバレ情報が蔓延する中、これまでのリーク情報を食い止められなかったAMC側が、徹底した緘口令を敷けるとは到底思えません。
すると、視聴者の憶測やリーク情報を更に上回るショッキングな出来事や衝撃的なシーンを盛り込むプロットにウェートを置かざるえない状況が生まれていきます。
それはドラマ性を重視する思惑とは次第にかけ離れてゆき、場合によっては当初予定していた脚本からの大幅な変更を余儀なくされるなんて事も・・
今から思えば、パメラ・ミルトン似のジョージーを登場させたのも、ヘリコプターの謎を引っ張り続けたのも、視聴者の動向の推移を見極めた上でのストーリー変更を画策していたドラマ業界の悲しい性だったのでしょう。
ダリルの真意と業界の夢
・・少々虚しく感じるかもしれませんが、ここで大幅に落ち込んだシーズン9の視聴率の低迷を受けて、ダリル役のノーマン・リーダスがDeadlineに語ったコメントを載せてみます。
「皆が数字を気にしている。『ああ、数字が落ちた』とかなんとか言って。でも視聴率が落ちたと言っても、それは過去の『ウォーキング・デッド』と比べてだろ?
人々のテレビの見方というのは、俺たちがシリーズを始めたころから変わった。スポーツ中継だって何だって視聴率は下がっている。そういうことだと俺は捉えているよ。たくさんの観客を抱えた番組を手掛けていて、皆に『もっと増える? もっと増える?』と聞かれるのは大変な重圧だ。状況はすっかり変わったんだ。
個人的には、数字の話なんて一切しないってのがいいと思うよ。
俺は、俺たちが作りたいと思う番組を作りたい。
俺はただ自分たちの気持ちに正直な番組を作りたい。
最初からそうやってきたように・・」
2018年11月1日シネマトゥデイより抜粋
この言葉を聴いて皆さんは何を感じるでしょうか?
俳優のリップサービスを鑑みたとしても、映像業界に身を置く人間はスタッフ&キャスト問わず、皆この呪縛から解放される事を望んでいます。
それでも視聴者の顔色を窺っていかないとコンテンツ自体に製作費が下りない事も現実。
『ウォーキング・デッド』はそんな中で、皆さんに何を与えたでしょうか?
一見、刺激の強いストレス発散用のアポカリプスドラマの様に感じられるかもしれませんが、その裏ではギンプルの当初の趣向も含めて、伝えたかったのは人間性の回帰。
それをウォーカーに準えた無機質な現代社会で、人はどうやって取り戻していけるのか?
そんな根源的で純粋なテーマが潜められていた気がしてなりません。
しかしそのすべては、もはや視聴者の判断に委ねられました。
つまり、ただのミステリードラマ崩れの刺激的なゾンビドラマとして終わらすのか?
それとも、人生の教訓に残せるような、希望ある未来を創造するヒューマンドラマとして終わらせるのか?
多少人間関係が複雑でその人物描写が伝わりづらくても、個人的にはどうしても後者を望んでいきたいので、その流れに沿った上での願望も込めて、今後の展開を以下に予想してみます。
ヘリコプターの集団の展望
自分が一番危惧していたヘリコプターの集団に連れ去られていってしまったリックは、シーズン9の第5話でのアンの狼狽ぶりから考えても、それなりに倒錯した集団に捕らわれていってしまいそうですが、彼らをコモンウェルスとは別の共同体と仮定した上で、完全オリジナルとなるトリロジーの映画版でのリックの行方に、想像を膨らませてみます。
①社会主義の共同体
これまでのシーバー越しの会話の男の雰囲気、その口調等から辿っていくと、どうしても辿り着いてしまうのが、映画版の『CASSHERN』に出てきそうなスチームパンクな共同体。
原子共産制を掲げた毛沢東時代の中国の様に全ての物資が統制された管理社会で、生存する権利と引き換えに全ての人々は労務を科されている状態。
この場合、Aとされる人間は管理者側の素質のある人間で、一定の洗脳を受けてBとされる弱い労働者に使役させています。
アンがリックをBとしたのは洗脳を受けない為の配慮で、二人は捕らわれていそうなヒースあたりと協力し、その共同体の転覆を図った上でミショーンの元へと戻っていきます。
しかしニーガンの率いていた救世主たちと若干ニュアンスが被っている点と、性悪説な社会運営体制にまたアタマを痛めてしまいそうですが・・
②宗教国家を目指す集団
日本人にはなじみが薄くても、世界の歴史を紐解いていくと大体はこの手の国家に辿り着きます。
ましてや、死者が蘇ってしまった世界なら尚更。。
映画『哭声/コクソン』の世界観そのままの様な、復活したウォーカーを神によって使わされた化身に見立て、倒錯したキリスト教国家の復権を願う中世のクラシカルな趣向を目指す集団。
この場合もA,Bそれぞれを導く側の使徒と付き従っていく従者に見立て、ユダヤの戒律並みの厳しい掟の中で人々を纏め上げています。
そして人は生まれながらにして罪人的な宗教観の中で苦しむリックは、カールの性善説からの葛藤に突き動かされ、既に洗脳を受けていそうなドワイドあたりと結託し、この団体と真っ向から立ち向かっていく・・
しかしこの場合、リックと合流後のモーガンさながらのウザイ宗教観を再び持ち出され、ピンとこない日本人にはたちまち敬遠されてしまいそうです。
③ゾンビウィルスの開発を目指す団体
私的にはせめて一番コレを望んでいます。
シーズン1のラストで爆発したCDC(アメリカ疾病予防管理センター)は実在する組織で、その支部は実はワシントンD.C.、コロラド州、ペンシルベニア州などにも存在しています。
その何処かの施設に未だ研究を続ける生存者が残っていて、彼らの開発するワクチンがA又はBとされる被験者を求め人々を探し続けています。
或いはWHO(世界保健機関)レベルの国際的な機関なんかでもいいですが、彼らの研究が大詰めに差し掛かった頃、ウォーカーを人類に戻す可能性を秘めた染色体等がリックから摘出され、彼はその為に身を捧げる・・・
つまりこの展開だとリックは最後に死を迎える結末に至りますが、その死の間際に成長したジュディスに再び出逢えるとしたら、それは希望ある未来へと繋がっていけるでしょう。
この説はGさんのブログでも紹介されている通り、以前アンドリュー・リンカーン自らがインタビューに答えた内容の拡大解釈ですが、彼が演出側の人間に回った今となっては、あり得ない展開とは思えません。
ドラマ版のリック最終話で、当然その回想に登場してきてもおかしくないグレン役のスティーヴン・ユァンがTWDシリーズへの再登場を拒んだ点から鑑みても、熱狂する視聴者とは裏腹にこのドラマの行く末に期待を持っている業界人は、もう大分少ないのかもしれません。。。
なのでリックで始まった物語は、やはりリックで終わらせる事が最も重要。
コミカルなマーベル的要素を取り入れてドラマ版のその寿命を繋いでいったとしても、映画版のトリロジーのラストでこのシリーズに一旦終止符を打つのが最善策でしょう。
その有終の美を持って、ニーガンのその後のスピンオフや、『フィアー』の登場人物たちとの交流を描くアナザーストーリーを展開していくのであれば、少しは本来のウォーキング・デッドの世界観に立ち戻っていけるような気がしています。
『ウォーキング・デッド』シーズン9は、
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