マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『ザ・フォッグ』の私的な感想―100年前の亡霊伝説を描くクラシックホラー―

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The Fog/1980(アメリカ)/99分
監督/脚本/音楽:ジョン・カーペンター
出演:エイドリアン・バーボー、ジェイミー・リー・カーティス、ジャネット・リー、ハル・ホルブルック

 見えない恐怖を最大限に生かしたカーペンターが放つもう一つの名作ホラー 

前回の、最恐ゾンビ&オカルトホラー映画10選には入れていませんでしたが、

「『ザ・フォッグ』を名作ホラーに入れないなんてありえない!」

と言う厳しい先輩からの指摘を頂き、早速この映画を見てみました。

2005年のリメイク版があまりにお粗末過ぎたので未だに手を出せていませんでしたが、観賞してみるとなるほど納得。

フィルム・ノワールに通じる数々の表現技法を駆使し、見せない恐怖を存分に煽り立てています。

今回はそんな偉大なる?カーペンター監督へのお詫びと反省の意をこめて、単独での彼の作品紹介を。

 

「私達が見えるものや見えると思うものは皆、夢の中の夢なのだろうか?」

というエドガー・アラン・ポーのインタータイトルで始まるこの映画は、懐かしい80'sのDJナンバーと忍び寄る亡霊たちの恐怖が絶妙にマッチング。

近年のホラーでは亡霊が登場する際の効果としてしか扱われなくなってしまったそのものに生命を吹き込み、その見えないものの奥に潜む人影、怪しく光る赤い眼等、数々の恐怖心を煽る効果は中々に見事。

 

冒頭でキャンプファイヤーを囲み子供達に語り出す老人の描写には、ホラー映画と言うよりむしろ日本の古典的な怪談物語を彷彿とさせてきます。

 

100年前の先祖の亡霊が街に表れるというクラシカルな幽霊伝説の中で、彼らが怨念を抱く町の開拓者たちの子孫らによる謎解きミステリー要素まで内包しており、そのダークな質感は作品の序盤から深く人の心に恐怖を植え付けます。  
 

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―――町の生誕祭を間近に控える小さな港町「アントニオ・ベイ」
そんな町の功労者を先祖に持つ地元のラジオDJ・スティービーは、深夜放送の最中に窓外の海の様子に僅かな違和感を抱く。
・・彼らには語り継がれなかった物語。
それは、100年前に町を作ったとされる4人の男たちが起こした冷酷な裏切り。。
彼らに虐殺された町の富豪たちの怨霊が、濃霧に乗り町を覆いつくしていく・・ 

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 ジョン・カーペンターのこだわりと悲劇 

『遊星からの物体X』の劇中にも流れ続けていたジョンカペニズム(造語です。。)の単調な環境音はやはりどうしても押しつけがましく感じてきてはしまいますが、それでもこの映画を観ると彼のホラー映画に対する愛情がひしひしと伝わってきます。 

シネスコ(12:5)の映像に絶大な信頼と美学を持つ彼らしく、特典映像ではこの画面比率に対する監督自らの深いこだわりを漏らしていますが、何より彼が情熱を注ぎ込んだのは霧の描写への思い入れ。

車に襲いかかる様にこのスモークを演出する為には、近年では通常CG処理で補完していくのが定石ですが、この映画の撮影を行った79年当時、細かな編集技術が確立されていなかった中で彼はこの効果を逆回し再生でフィルムに残す事により、あたかも霧自体が生き物であるかのように描写。

裏切られた過去を持つ先祖の怨霊という潜在的に人の恐怖心を煽りたてるメソッドには、昨今のホラー映画には中々見られない異形の者へのエンパシーを抱かせてきます。

 

とここまでは褒めちぎってはみましたが、やはり私的にはどうしても何かが物足りません。

それはやはり登場人物たちへ感じる親近感

 

文化が違うと言ってしまえばそれまでですが、『リング』の貞子、『エルム街の悪夢』のフレディ等のような亡霊たち自体の悲哀を描写するシーンは少なく、それに向き合う主人公たちの様子もシニカルでウィットに富んではいますがイマイチ人間味が感じられません。

 

同世代にデビューし大衆迎合化した作品で数々のヒットを飛ばしたスピルバーグやルーカスと違い、自らの強いこだわりのみをストイックに追い求め続けたカーペンター故の悲しい性なんでしょうか?

 

ディティールへのこだわりや強い映画愛は十二分に感じられるホラー映画ではありますが、生身の人間との繋がりが映像を作る上でいかに重要なのかを痛感させられるちょっと切ない作品でした。

 

「ザ・フォッグ」
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