マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『タクシードライバー』の私的な感想―ジョーカーとトラヴィスの悲観論の違い―(ネタバレあり)

Taxi Driver01

Taxi Driver/1976(アメリカ)/114分
監督:マーティン・スコセッシ 脚本:ポール・シュレイダー
出演:ロバート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ハーヴェイ・カイテル、ジョディ・フォスター、アルバート・ブルックス

 孤独な男のナルシズム

最近、孤独な男のナルシズムを描く映画が、ちょっと増えてきた気がしてる。

世間がメンタル弱い系男子を追い込む恐ろしさに、ようやく気づき始めたって事?

 

近代アメコミサイコパスの頂点に君臨する『Joker』に変貌していく男、アーサー。

その彼にとってのカリスマヴィランたるマレー役を演じたデ・ニーロにも、再び注目が集まってくれるのは、アラフォー世代からするとちょっぴり嬉しくなる。

彼はこの作品の役作りの為、実際に3週間もの間、マンハッタンでタクシードライバーとして働いたというエピソードを持ち合わせ、デ・ニーロ・アプローチなんて言う役者魂まで生み出した。

そんな彼が半世紀も昔に、アーサーより更に孤独な男トラヴィスを演じた本作は、その名を世に知らしめた代表作の一つにして、彼が唯一カンヌでパルム・ドールを受賞した作品だけど、二人の狂気に憑りつかれた男の行く末は、実はまるで違う。

今回はそんな二人の比較をしながら、瞳の奥にしっかりと大衆の持つ気怠さを投影させた男達の心理に、またまたどっぷりと漬かってみたい。

 

 

 

 

あらすじ
タクシードライバーとして働く帰還兵のトラビス。
戦争で心に深い傷を負った彼は次第に孤独な人間へと変貌していく。
汚れきった都会、ひとりの女への叶わぬ想い
そんな日々のフラストレーションが14歳の売春婦との出逢いをきっかけに、トラビスを過激な行動へと駆り立てる。
Filmarksより抜粋

Taxi Driver02

 民主主義に抗う男達

70年代独特の差別意識や、黒人への偏見等、風刺の効いた台詞がお構いなしに出てくるこの映画では、枕詞の様に語られている、戦争帰りの兵隊のPTSD症状なんて、実は劇中で1ミリも説明されない。

トラヴィスの患う不眠症は、鬱独特の症状ではあるが、どこか万人が抱える悩みともリンクする儚さで、物語の序盤にそれに引き寄せられるベッツィーなんかは、それをミステリアスな魅力と錯覚する典型的な大衆女性。

やがて彼女は、デートに平気でポルノ映画を見せてくるトラヴィスに卒倒し去ってゆくが、これも闇に魅せられた男の心理からしてみれば至極当然な、自己表現の一部だったのだろう。

けれど、この事象によって、トラヴィスは自分が世間との感覚のズレが生じている事に気づかされ、もがき苦しんでいく。

そしてそのギャップを埋める為に思いつくのが、ベッツィーの応援する、浅はかな民主主義を振りかざす大統領候補の暗殺計画。

しかし、その一方的な自己主張は、必然的に断念せざるを得なくなり・・・

 

彼が自爆テロリストからアンチヒーローへと変貌できた所以は、まさにここにあって、トラヴィスの狂気はそれが外因と言えど、実はしっかりと救われている。

 

対する『Joker』に登場するアーサーは全くの逆で、冒頭から失笑恐怖症である自分をしっかりと認識している。

故に、ソフィーに恋心をも告げられず、その蟠りは更に広がってゆき、マレーからの嘲笑をキッカケに、ダークヒーローとしての自分の負の美学を形成させてしまう。。

互いに厭世的でニヒルな横顔で締めくくるこの二人のサイコパスは、言わば一般論の民主主義に抗って生きる男の具体例だが、それを大手メディアの様に一緒くたにして敬遠してしまうのは、どこか危険な臭いがする。

 

 

Taxi Driver03

 悲観論の捉え方(※以下、ネタバレあり)

レズビアンである事をほぼ公言し、今ではすっかり厳格なイメージを持つジョディ・フォスターが、役年齢と同じ若干13歳にしてアカデミー助演女優賞にノミネートされた裏には、この作品で出逢ったデ・ニーロの存在が大きく影響している。

その幼いコールガール役の心理に迫り、デ・ニーロ演じるトラヴィスに体当たりでぶつかり、演技力を開眼させていった彼女は、劇中のアイリス同様、初めは戸惑いつつも、彼に絶大な感謝をしている事だろう。

けれど、後に彼女の熱狂的なファンを自称するジョン・ヒンクリーによってレーガン大統領暗殺未遂事件にまで発展してしまった悲劇により、彼女のショックは計り知れないものに変わっていくが、この蒙昧な群衆の錯覚に影響力を及ぼす俳優の気苦労は、半世紀もの時が経った今でも、変わる事はない。

つまり、左派寄りに映画人が権力を否定するのは、プロレタリアートの憂鬱に寄り添おうとするものの、民主主義の産む悪意に懸念を抱き続けているからなのか?

 

互いに純粋過ぎた『Joker』のアーサーも、本作のトラヴィスも、当初は自虐的ながらも、しっかりとその信念を貫いていた。

アーサーはコメディアンとして大衆を笑わせ、トラヴィスは大統領候補に心からの賛辞の言葉を贈る。

 

けれど、その二人は、銃を手にした瞬間に分水嶺に立つ。

 

それは、本作の監督マーティン・スコセッシが、わざわざ自らが出演までして、逆上する男の愚かさをトラヴィスに見せつけたからだ。

この虚しさを脳裏に焼き付けていた彼は、失敗する暗殺計画の末に、元々持ち合わせていた自己犠牲の精神に立ち戻り、アイリスを売春組織から奪還しようと立ち向かっていく。

 

一方アーサーは、嘲笑された憧れのコメディアン、マレーを撃ち殺した末に、図らずとも宿敵『バットマン』となるブルース・ウェインの憎しみを産み出してしまう。。

 

この二人の差異は、時代と共に移り変わるコミュニケーション能力の違いこそあれど、映画的な妄想に裏付けられた悲観論の捉え方にある。

 

ムーディーなBGMが流れる中、カラフルなネオン街に晒されたトラヴィスの視線は、ふと宙を彷徨う。

それは同僚の集まったダイナーで、ソーダ水に湧き上がってくる泡を見つめる時でも、ポルノ映画館に、疎らに散らばり没頭している大衆を目の当たりにした時にでも・・

 

この虚脱感に対し、アーサーの様に居直るか、トラヴィスの様に抗うか?

 

秋波に塗れた二人の正義は、ここで袂を分かつわけだ。

 

コンサバに毒されたリアリスト達は、共感力は同じ立場や境遇の者からしか生まれないなんて冷静に謳うけど、アイロニカルな悲劇作家の盟主になり得たマーティン・スコセッシ監督は、この男のカタストロフィにほんのりと希望を託してくれた。

 

ジョディ・フォスター同様、コミュ障世代真っ只中の若者達への危惧は、どうしても拭う事は出来ないけど、ベッツィーがトラヴィスに対して僅かに芽生えたラストの違和感だけは、愚行の末に、彼がようやく辿り着いた勇気への報酬だった事を、今でも信じ続けていたい。

 

「タクシードライバー」
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