マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『唐山大地震』の私的な感想― 震災の日から続く家族の絆―

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唐山大地震/2010(中国)/135分
監督:フォン・シャオガン
出演:シュイ・ファン、チャン・チンチュー、リー・チェ、チャン・ツィフォン、チャン・ジアージュン

 震災が起きた時に自分たちに出来るコト

2018年9月6日午前3時8分に発生した北海道胆振東部地震に関して、自分に何か出来る事はないかいろいろ考えてみたが、映像業界に生まれ育った自分に結局今出来る事はやはり映画を通じてそれを伝える事。

災害発生からのデッドリミットと言われる72時間が過ぎた9月9日現在、自衛隊を含めた必死の救助活動が行われている中、不謹慎な事は百も承知の上で、あえて今この映画を紹介してみたい。

 

この映画は当初2011年3月26日に松竹系で公開が予定されていた作品だが、同年3月11日に起きた東日本大震災の影響で日本公開が延期。

その後、心の復興を目指し2015年3月14日から東京の東劇を封切りに全国順次公開されて反響を呼んだが、現地のリアルを体感していない自分たちにとっては、せめて目を背けずまずその恐怖を知る事からなんじゃないかと。

 

唐山地震は1976年7月28日に中国河北省唐山市付近を震源として発生したマグニチュードMw7.5の実際に起きた大地震

マグニチュード6.7を記録した今回の地震よりは少々規模は大きいが、同じ夜中の3時台に発生した直下型地震として想定すれば、その恐怖は計り知れない。

 

唐山市の公式記録ではこの地震による死傷者は14万8000人以上で、重傷者数はのべ8万人以上。

家屋の全壊率は94%にまで達しており、正に20世紀最大級の未曾有の災害だ。

地震発生当時、中国は毛沢東による文化大革命の嵐が吹き荒れていた事情もあり、外国からの支援を完全に拒絶した中で起きたこの地震では、政府の方針によって被害実態が現在まで明確にされておらず、非公式ではその死者数は60万人以上に上ったとも言われている。

 

劇中に登場する家族はフィクションだが、この震災によって34年間もの年月を引き裂かれた家族の痕跡を辿っていくこの映画を観終えると、劇中の台詞どおり、

「失う事の意味は、失ってからわかる」

という言葉が頭の中をリフレインする。

 

災害に限らずとも、自分たちはこの言葉の持つ本当の重みを理解出来ているだろうか?

人間同士の繋がり自体が希薄になりつつある現代社会の中で、震災そのものがもたらす恐怖よりも、その突発的な事象で究極の判断を迫られた人間の業をこの映画からは激しく痛感させられる。



 



―――ダーチアンとユェンニーは双子の姉弟・ドンとダーと唐山市で暮らす仲睦まじい4人家族。
しかしある日、トンボの大量移動から始まった突如の大地震により、倒壊した瓦礫の中に幼い二人は埋もれてしまった。
夫に庇われ命を取り留めた妻は、必死に助けを求め続けているダーを死に物狂いで助け出そうとするが、同じコンクリートの下にはドンの姿も。
協力していた周りの人間は、どちらかを助けるとどちらかが圧死する可能性を妻に説くが、彼女は答えを出せないまま。
やがて苦渋の決断を迫られた母は、放心状態のまま一方を選ぶ選択をするが・・・

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 震災から救われた人間が抱え続ける業

ディザスター映画でありながら、それを乗り越えた人間達がハッピーエンドに繋がっていかないこの映画の展開も実に興味深い。

冒頭の震災シーンは、被災を受けた経験のある方にはちょっと目を覆いたくなる程の壮絶さだが、前述した様にこの映画のテーマは震災から救われた人間が抱え続ける業にある。

 

戦争や殺人で親類を失くされた方は国家やその相手を憎めるが、災害により愛する者を失った人たちが責めを負うのは自分自身。

それは劇中の家族の様に、場合によっては助けた者、助けられた者双方にもなんらかの呵責を生み、その心の瑕はどれだけの年月が過ぎようとも簡単に消え去るものではない。

 

この映画はそんな一つの震災からは助かったものの、救えなかった命、或いは救われた事によって深く自責の念を抱えた人たちの極限の悪夢を120分間描き続けている。

とは言え、尺の割には2時間という長さがあっという間に感じられる程、生き延びた家族の苦悩に満ちた半生がきっちり凝縮されいて、それぞれの青春、出会い、更には人生観にまで深く震災の影響が残り続けていくトラウマには、深く身につまされる想い。

そして時を超え、地震から切り離された家族が四半世紀を経て再び地震によって繋がっていく描写には、出来過ぎだが感涙せずにはいられなくなってしまう。

 

中国映画独特の生々しさと、お盆の風習や死生観、更には移り変わる共産主義社会の世相も上手く取り入れたこの作品は、被災地と呼ばれる地域が広く日本全土に点在してきた今だからこそ、一度は観てもらいたい永遠に途切れる事のない家族の絆を強く実感させてくれる。

 

『唐山大地震』
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