マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『新聞記者』の私的な感想―地上波では放送できない不都合な真実―

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Journalist/2019(日本)/113分
監督:藤井道人
出演:シム・ウンギョン、松坂 桃李、本田 翼、西田 尚美、高橋 和也、田中 哲司

 全国公開に漕ぎつけたポリティカル映画

日本人はとにかく政治に疎い。

そんな中、ローバジェットな皮肉めいた作品ではなく、全国公開でこの手のどストレートなポリティカル映画がようやく日本でも日の目を見れた事は、ちょっと嬉しくなる。

とは言え、『バイス』の様なアイロニカルな笑いもなく、『ペンタゴン・ペーパーズ』のようなサスペンス色もだいぶ薄いこの作品は、まだプロパガンダ映画と呼ぶには少し早いのかもしれない。

 

勝手な持論だが、映画は万人に問いかけるエンターテインメントであってほしい。


それは、例えば老若男女を問わず人気のある俳優が出ていたり、観客に受け取りやすいメッセージがきちんと込められていたりする。

そして欲を言えば、その先に立ち止まって考えさせられる瞬間なんかが盛り込まれてれば、映画としては満点。

 

けれど、それだけで観客は満足しない。

それは必然的に、まず受け手の需要をきちんと満たしておく必要があるからだ。

マーベルやアニメ原作なら人はそこに理想と解放感を求め、時事ネタやサスペンスならば、その問題に親近感や現実味を感じられないと、人の心は掴めない。

 

実在する東京新聞の記者・望月衣塑子氏のノンフィクション小説『新聞記者』を原案に作られたこの作品は、そのあらゆる角度から見ても、条件を満たしてるとは言い難い。

旬を過ぎつつある松坂桃李の魅力だけで、観客は引き込まれないし、熱心な野党支持者層でもない限り、今更モリカケ問題の真相を知りたい人も少ないだろう。

更に劇中に一瞬だけ登場する、安倍総理お抱えのジャーナリストにレイプされた伊藤詩織氏の事を、あれから僅か2年の月日が流れた今だとしても、一般人がどれだけ覚えているだろうか?

 

邦画でオーソドックスな政治映画が得意な監督と言えば、若松節朗、阪本順治、原田眞人監督あたりが有名だが、このリアルタイムな行政の闇にメスを入れた監督は、若干32歳の藤井道人監督。

同監督は、自身の経験の浅さからこの作品のオファーを一度断ったのにも関わらず、製作サイドの強い要請によってメガホンをとったと聴く。 

それは察するに、忖度なく若者目線でこの手のテーマを扱える監督を探していたのかもしれない。

そして、あまりにもたどたどしい日本語を操る主人公・吉岡エリカの役を、先日仰天の婚約発表をした某技巧派女優を始め、数々の日本の著名な女優陣が、もし、プロダクションサイドで軒並みその出演依頼を断らざるを得ない状況だったとしたら・・ 

 

 

 

 

あらすじ
東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名 FAX で届いた。
日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある強い思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究明すべく調査をはじめる。
一方、内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李)は葛藤していた。
「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。
愛する妻の出産が迫ったある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。
真実に迫ろうともがく若き新聞記者。
「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。
二人の人生が交差するとき、衝撃の事実が明らかになる・・
Filmarksより引用

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 民主主義のカタチ

暗いトーンの内閣情報調査室や、新聞社の雑踏を追うハンディカメラの映像等々。。

若い監督の割には、現場の雰囲気を極めて丁寧に撮っている印象を覚える。

 

けれどやっぱり気になってしまうのは、シム・ウンギョンのたどたどしい日本語で、激情は見事だが、その細部の気持ちの入れ様が台詞とどうも上手く噛み合っていない。

また、メディアの情報を鵜呑みにする事に警笛を鳴らすテーマを根底に添えながらも、左派的に国の陰謀を暴く新聞記者側からの正義のみを突きつけてくる脚本も、ちょっと秀逸とまでは言い難い。

 

参事官を演じる田中哲司はあまりに不気味で、国の裏の顔そのもの。

内閣府に勤務する神崎演じる高橋和也は、68年にユタ州の実験場から洩れた猛毒神経ガスで大量死したダグウェイ・シープの落書きが描かれた機密文書だけを残し、あっさりと死んでしまう。。

他のキャスティングも、まるで地上波放送が絶対に出来ない事を見越したかの様に見事なまでの忖度が伺え、大手事務所や旬の俳優陣は全く出てこないが、それも日本では滅多に観られないブルーオーシャン的な政治映画の先駆けと考えれば・・

なんて余計な心配ばかりが頭をかすめ、あまりにダークな質感のフィルム・ノワールにイマイチのめり込めなかった時、唐突に田中哲司の台詞が胸に突き刺さった。

この国の民主主義はカタチだけでいいんだよ・・

そんな直球な物言いにちょっと驚いてしまったが、きっとこの映画はこれだけをきちんと観客に伝えたかったのだろう。

 

ラストに松坂桃李演じる若手エリート官僚の杉原が、顔面蒼白で訴えかけるアップの映像は、保身のあまり、自分に都合の悪い真実から目を背けるようになった全日本国民への心の叫びだ。

 

劇中で、伊藤詩織さんの事件をモチーフにしたレイプ被害の記事は、三面にも載らない。

国民の血税で設立されるレベル4の医療施設のモデルは、間違いなく加計学園だろうが、作中の様に、その施設の目的がバイオ兵器の研究ではないにしても、頑なに関与を否定する安倍総理の言節からも、国から圧力のかかったマスコミじゃ報道できないなんらかの真実がそこに隠されていたとしても、おかしくはない。

 

昨今、相次いで謹慎処分を受ける芸人のニュースが巷を賑わしてはいるが、夢を追う職業の人間達が、知らずに反社勢力との交流を持ってしまうのは、言ってしまえば必然でもある。

どこかの芸人の台詞を借りれば、彼らはそれしか他に出来ない人間達という共通項で実は同じであり、その憂いはどこかで同調してしまう。

そんな臆病な彼らがつい口走ってしまった嘘と、国家権力の傘の下にいる者が信念を持ってつく嘘との違いぐらいは、この映画からの強いメッセージを踏まえて、せめてバイアスをかけず区別できる大人であり続けたい。

 

最期に、鈍牛倶楽部の田中哲司氏を始め、この映画に登場した実際にモデルのいる人物を演じた全ての俳優陣の勇気に、心からの感謝と敬意を表したい。

 

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