マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『セレニティー』の私的な感想―平穏の海のルールを破る者―(ネタバレあり)

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Serenity/2019(アメリカ)/90分
監督/脚本:スティーヴン・ナイト
主演:マシュー・マコノヒー/アン・ハサウェイ、ダイアン・レイン、ジャイモン・フンスー、ジェイソン・クラーク

 現実では体験できないコト

・・最近、面白い映画いい映画との違いがイマイチよく分からなくなってきた。

大勢の観客を納得させられれば面白い?

平和や人類愛なんかを訴えていればいい映画?

作り手側としては、多様な価値観、或いは現実に自分では体験できない様な思いを想像させてもらえる事が映画の醍醐味だと思っていたのだが、どうやらそれは結構難しいみたい。。

 

言わずと知れたマシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイをはじめ、『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェイソン・クラーク、『ブラッド・ダイヤモンド』のジャイモン・フンスー等の名脇役をずらりと揃えたこのNetflixイチオシの新作も、そんな類に漏れず、巷の評価はすこぶる悪い。

Rotten Tomatoesの批評家等の支持率は22%と落ち込み、「どんでん返しのあるだけの単純なミステリ映画」なんて酷評を受けてしまっているが、それは多分ネット空間にしか居場所のない若者たちが抱く希望に想像力が追いつかないからだろう。

 

インター・ステラー』以来5年ぶりの競演となる二大スターが、それまでの王道の清純派イメージをだいぶ崩してきたその人物設定も面白いが、この映画はそんな際立ったデフォルメのキャラクターにこそ、本当のトリックが隠されている。

あまりにもったいない出番しかないダイアン・レインなんかは、もうちょっと見所が欲しかった気もするが、予想の遥か斜め上を行くその顛末をきちんと読み解いていくには、登場人物に一切の主観を入れず、この映画そのものをだいぶ高い位置から俯瞰して見ていかないとちょっと難解過ぎる作品かもしれない。。

 

 

 

 

あらすじ
カリブ海の島で釣り船の船長をして穏やかに暮らすベイカー(マシュー・マコノヒー)の前に、突然美しい元妻カレン(アン・ハサウェイ)が現れる。
彼女からの依頼は暴力的な現夫のフランク(ジェイソン・クラーク)を釣りに行くと見せかけ、沖に連れ出して殺して欲しいというもの。
驚愕の依頼に動揺するベイカー、企みの末に巻き起こる衝撃の結末とは?
Filmarksより抜粋

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 少年の創り出したバーチャル空間

偉そうに能書きを垂れてみたものの、自分も御多分に漏れず、この映画の主旨は初見では全く分からなかった。

カリブ海に浮かぶ楽園で、“ジャスティス”なんて名前の幻の黒マグロを追う主人公ディル。

その相棒のデュークなんかは、まるで大味な海賊映画に出てきそうな見た目そのままで、ジャイモン・フンスーの黒い肌に蛍光色のシャツがやけに映える。

しかしそんな彼らのバックグラウンドに、海の男ならではの破天荒な生き様が漂っていたとしても、イマイチピンとこない。

それはディルが日銭を稼ぐ為に、コンスタンスと呼ばれる街のリッチマダムの男娼に身をやつしていたせいなのかもしれない。。

とにかく演出自体もだいぶ通俗的で、彼らと酒場の仲間達との会話、更には無機質にアングルをずらしてくるカメラワークなんかも『マトリックス』のような王道SF映画を見ている様な感覚で、開放感溢れる南国を舞台にした作品にはあまりにそぐわない。

やがて冒頭から10分足らずで飽きてきてしまった自分は、彼らの物語の舞台になっているプリマス島と呼ばれる島を何気にネットでググってみた。

 

プリマス(Plymouth)は、カリブ海に浮かぶイギリス領モントセラトの首都。しかし、火山噴火で大損害を被ってからは首都機能もなく、廃墟と化している。人口は0人(1997年以降無人である)。
Wikipediaより抜粋


史実モノではないので、彼らの楽園の設定が何処であろう別に構わないが、その舞台を敢えて無人島にしてきたトコロが、なんだかちょっとひっかかる。。

やがて往年のハリウッドスターの様な煌びやかないで立ちで酒場に登場してくるアン・ハサウェイを見た瞬間に、その違和感は更に強まった。

 

まるで『ワン・ピース』のような様相のこの世界観は、本当に現実なんだろうか?

 

そこではじめて、その全てが冒頭に登場する少年が創り上げたバーチャル空間だった事に気づかされる。 。

 

 

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 バーチャル世界での復讐劇(※以下、ネタバレあり)

ここまでで『アイデンティティー』の脳内世界の様な異質な空間の説明は大体ついてしまう。

時間通りに変わる信号機や船の出航時間、不自然なまでに多用された人物の正面からのショット、更には見た目がAIチックにも見える俳優陣を敢えて揃えてきたのもその為だろう。

カラフルな南国を舞台にした稚拙なアドベンチャーストーリーも、全て部屋にこもったきりの少年が、脳内ドーパミンをフル回転させてプログラミングしたバーチャル空間であるとするならば文句はつけられない。。

しかし、サメ系海洋スリラーを彷彿とさせた冒頭と、サイキック・サスペンスへと変化していく中盤からの組み合わせがすこぶる悪い。

更にこのちょっと早過ぎる種明かしこそが、ひねったどんでん返しを期待してしまっていた観客の興趣を一気に削いでしまうわけで、あまり上手い演出とは言えないのだが・・

 

この映画の本当の醍醐味は実はここから。。。

 

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』なんかでも早い段階でストーリーをひっくり返すのが得意なスティーヴン・ナイト監督の真意は、もう一歩踏み込んで想像力を膨らませていかないと中々解読するのが難しい。

 

フィッシングをする退役軍人の主人公が繰り広げるアドベンチャーゲームに仕立てたのは、少年の潜在意識からくる父親との思い出

彼が男娼まがいの情事に耽って日銭を稼いでいるのも、現実世界で粗野で拝金主義の義父に寄り添っている母を無意識のうちに意識していてしまったからだろう。

劇中には少年がプログラミングしたとは思えないエロティックな描写も散見するが、それも彼がいくら耳をふさいでも零れ聞こえてしまう母親達の性生活からくるものだとしたら、その淡白な情事の様子も、ちょっと違ったカタチに見えてくる。

 

つまりこの映画は、バーチャル空間の中で父親になりきって妄想癖を広げる子供と、その彼の深い現実の闇の世界とが入り混じっていく物語。

 

やがて、母がその義父から受け続けている虐待を見かねた少年は、自分のオリジナルゲームの中に本物の母親を登場させて彼への復讐を試みようとするのだが・・

 

 

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 創り上げた人格に自我が芽生える時

・・ここからの自分の解釈は、ちょっと妄想が過ぎるのかもしれない。。

 

それでも率直に感じたのは、劇中のバーチャルな主人公には、オリジナルの感情が芽生えていたのかどうか?

ここの取り方の違いでこの作品に批判の声を上げる視聴者も少なくないようだが・・

 

私的な解釈では、少年がゲーム内に召喚させた実際の義父と母は、彼の細やかな現実世界への抵抗だっただけではないだろうか?

 

つまり、劇中劇の中で義父を殺害しようとしているのは、あくまでもバーチャルな空間での憂さ晴らしであって、少年自身が倒錯していったワケではない

現に、ゲーム内の“ルール”を用いてあらゆる方法でその殺害を止めようとする登場人物たちは、少年がプログラミングで作り上げた彼の一種のモラルでもあったわけで。。

 

しかし、彼の創り上げたキャラクター達には、次第に感情が芽生え、自我が生まれていき、次第に少年自身の判断基準さえも揺さぶっていく。。

或いは、現実の少年の回りを取り巻く激しいノイズが、潜在意識の中でそのプログラミングさえをも書き換えてゆき。。。

 

やがて、バーチャルな世界での父親が少年の存在に気付いた瞬間に、彼はそれまでの“ルール”を作り変える決断にでる。

それでも、その入れ子構造の中に突然登場する相棒デュークの息子には、“ルール”と言う名の少年が持つモラルを大切に尊重しながら・・

 

そんな父親がはっきりと意思をもって少年の為に義父を事故死させた事により、彼が現実の母親を救う為の蛮行に走ってしまったとしても、それは不思議ではないだろう。

 

つまり、自らが創り出したアドベンチャーゲームの世界に、二度と会えない父親との思い出を投影させ辛い現実をやり過ごしていた少年は、その創り出した存在の父にようやく自我が芽生えた事で、再び巡り合う事が出来たわけだ。

 

この手の映画の落としどころは、『コンタクト』で主人公のエリーを演じたジョディ―・フォスターの時同様、未知の存在に自分のかけがえのない存在を反映して見せる演出にだいぶ似ているが、そんな風にこの作品を都合よくハッピーエンドとして締めくくられるヒトは、きっと、亡くした親への愛情と執念が入り混じった感覚を持ち合わせているヒトにしか、想像できない感覚なのかもしれないけど・・・

 

「セレニティー」Netflixでのみ観賞できます。

www.netflix.com

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