マリブのブログ

ニ匹ののら猫と一緒に随時三匹の飼い主を募集中の元帰国子女。。オススメの映画やドラマの感想を徒然に紹介しています。

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映画『ROMA/ローマ』の私的な感想―記憶の底に埋もれた家族の風景―

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Roma/2018(メキシコ・アメリカ)/135分
脚本/監督/撮影/編集:アルフォンソ・キュアロン
出演:ヤリッツァ・アパラシオ、マリーナ・デ・ダビラ

 逞しく生きる女の生き様

・・年の瀬くらいはもう少し夢のある映画を観たかったのだけれど、またしても逞しい女の生き様をまざまざと見せつけられてしまった。。

 

脚本、監督、撮影、編集まで熟すこの映画のアルフォンソ・キュアロン監督は、私的には『天国の口、終りの楽園。』のようなノスタルジックで厭世観が漂う作品が最も印象的だが、『トゥモロー・ワールド』や『ゼロ・グラビティ』 等の大作映画も手掛けるメキシコ人監督。

そんな彼が、

「この映画で描かれる90%の場面は、私の記憶に基づいています。」

と語っている様に、この作品事態のスケールはとてつもなくパーソナル。

更にAlexa65という極めてニッチで玄人好みなカメラで撮られたそのモノクロの映像からは、古き良き映画黄金期の奥行きのあるフィルムの質感をたっぷり堪能できる。

しかし、太古を舞台にした家族映画、或いはダーウィン主義的なアダムとイブの物語を語るために膨大な人類学の資料をリサーチしていたとされる彼が、ここにきて原点回帰を辿る家族の風景に手を伸ばそうとしてみた理由はなんだったのだろうか?

 

 

 

 

―――70年代初頭のメキシコシティ。
他のラテンアメリカ諸国がクーデターに巻き込まれる中、シビリアンコントロールにより異例の高度経済成長を遂げていたメキシコにも、徐々に暗い影が差し掛かっていた。
経済の発展に伴い格差が拡大し続ける中、自由の制限の著しいPRI体制下の元、その統治体制に疑問を抱く学生や知識人達は反発を強めるが、その強権的な反対運動への弾圧により、多くの死傷者がでていた。
そんな中、4人の子を持つ医者のアントニオとその妻ソフィアは、祖母と家政婦として働く若い女性クレオと、ごく平凡な生活を続けていた。
やがて、クレオは同僚の恋人の従姉妹にあたる青年との間に子供ができた事が発覚。
夫のアントニオは長期の出張に出ることになり、クレオも相手の男の元を訪ねるが・・

 

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 渡せなかったラブレター

Dolby Atmosまで採用したその圧倒的な音響効果が、劇場公開よりもストリーミング配信を優先するNetflixでしか見られないのは少々もったいない気もするが、結果的にそれは正解だろう。

何故なら、ゆったりとしたスローテンポな上下左右へのパーンで切り取っていくこの作品の家族の様子は、今日の刺激の強いブロックバスター映画が主流となってしまったシアター系にはあまり向いていないからだ。

「映画館とは、その時勢に沿った大衆へのエンターテインメントであるべきだ」

なんて忘年会で呟いていた某監督の言葉通り、この無名のメキシコ人たちのみしか登場しない作品に手を出そうとする若者さえ現代では少ないのかもしれない。

 

それでも劇中に出てくる猥雑な街角やクラシカルな車、更にはメイドまで含めた大家族を形成するその肖像画は、あらゆる世界中の国々の高度経済成長期にみられるいわば原風景。

そんな時代の成り立ちを、自分だけのシアターで一歩俯瞰で覗いてみるには丁度いい。

・・まさしく監督が自らの過去を振り返っていった様に・・・

 

しかしそこで忘れてはいけないのは、この映画が殆ど史実に基づいた作品だという事。

 

なんて脅されてもたいして構える必要はない。

そこに映し出されているのは、ごく普通の中流家族の有様であり、家族の歴史。

言いたい事を素直に口に出せる裕福な子供たちの様子と、押し黙ったまま黙々と家事を熟す貧民上がりのメイドとの対比、更に妻とメイドとしての女の在り方の違いなんかも描かれてはいるが、それは幸でも不幸でもなく、ただあの時代の何処にでもあった日常的な風景なのだろう。

 

しかし終盤の海辺でのシーンでは、いきなり胸をグッと抉られる。

それは監督同様、それまで母親以上に自分の側にい続けてくれた主人公のメイドの尊さに気付けなかったから・・

 

つまり、雑多に塗れていた彼女の健気さ、逞しさ、更には本能的な母性を拭い去れない女の儚さが、ずっと監督の胸の内に引っかかっていたのだろう。

 

監督はこの作品で意図的に俳優陣に台本を渡さずに撮影を順撮りしていったそうだが、その狙い通り、彼らに大袈裟なリアクションや芝居は全くない。

 

しかしだからこそ、彼らの日常にありふれていた光景の中には様々な人の心の機微があり、その刹那をいちいち大切に生きていた時代があったのだ。

 

そんな心の箍が外れた瞬間に、監督は畏敬の念にも似た彼女へのラブレターを、月日を経てようやく手渡せたのかもしれない。。。

 

「ROMA/ローマ」
Netflixでのみ観賞できます。

www.netflix.com

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