Polar/2018(アメリカ、ドイツ )/118分
監督/脚本:ヨナス・アカーランド
主演:マッツ・ミケルセン/ヴァネッサ・ハジェンズ、キャサリン・ウィニック、マット・ルーカス他
マッツ・ミケルセンの艶
マッツ・ミケルセンという俳優をこの作品で初めて知ったのだが、『孤狼の血』を観たあたりから、年甲斐もなく粋でポーカーフェイスなチョイ悪オヤジに憧れを抱き続けてしまっている自分にとって、その風貌はたまらない。
キービジュアルに据えた画像の様な眼帯を着けてしまうと、もうどこから見ても悪役にしか見えないその佇まいは、ならず者人生を送ってきた万人のオトナ達が揃って嫉妬してしまう程の色気を帯びている。
そんなコペンハーゲン生まれの彼は、デンマーク女王より騎士勲章まで授与された北欧の至宝的存在の俳優らしいが、そんな名声にもおもねず、無心で俳優業に没頭している様もかなりにくい。
劇中では大胆なセックスシーンや半裸でのアクションシーン、更には深夜の雪原に突然全裸で現れ銃口を傾けるシーン等、正に体当たりの演技が満載。
それでもそんな無茶の末にガタのきた身体の健康診断を受ける為、半ケツ状態でおとなしく診察台に寝そべりながら直腸指診を受けている描写なんかを見せられてしまうと、現実に抗ってきたもアラフォー世代のそう遠くない未来に待ち受ける侘しい末路を見せられている様で、つい溜息が漏れてしまう。。
―――ダモクレス社に雇われるダンカンは、定年を2週間後に控える名うての殺し屋。
そんな彼が第二の人生に踏み出す為、様々な道を模索しようとしていた矢先、同僚のマイケルが暗殺者集団に殺される。
更に同僚のヴィヴィアンから最後の暗殺指令を受けたダンカンは、その背後で蠢く社長ブルートの邪悪な意思を感じ取り始め、彼がひっそりと暮らす山小屋の向かいに住む少女カミールにもその魔の手が忍び寄ってゆく・・・
モノトーンなダンディズム
つまりこの作品は、セクシャルな部分を前面に押し出したR指定お構いなしのハードボイルドバイオレンスアクションなのだが、つまらないディテールや辻褄にさえ拘らなければ、十二分に楽しめるオトナの娯楽映画でもある。
原作は“マーベル”や“DC”に次ぐアメコミ系の代表的なダークホースコミックスという出版社から2008年にWebノベルシリーズとして刊行されたようだが、同社の原作本から実写化された『300(スリーハンドレッド)』や『シン・シティ』等にも見られるスピーディーなカット割りや三分割される画面構図は健在。
そしてこの作品で最も魅力的なのは、それぞれのキャラクターの個性を浮き立たせるビビットな色彩感覚。
主人公のダンカンこと“ブラック・カイザー”にはその名のとおり漆黒。
敵対する組織のボス“ミスター・ブルート”には気怠いレモンイエロー。
二人の間を繋ぐ殺し屋仲間“ヴィヴィアン”のカーマインの口紅には、往年のハリウッド女優の様な艶やかさも感じられる。
更にその部下の若い殺し屋たちにもそれぞれの特色が色濃く表れ、プッシーキャットなシンディから凄腕スナイパーのファクント、彼らを仕切るブルートの愛人眉ナシアジアンのヒルデ等も、まるでコミックスから飛び出してきたような奇抜な印象の造形美。
けれど、この映画はただのアート的なポップカルチャーなわけでもない。
それは主人公のダンカンが殺し屋家業に疲れ果てた様子を通して、定年世代の憂鬱をしっかり感じ取れるからだ。
自分達の様に、それまで真っ当に人と関わってこなかった人間のツケは意外に大きい。。
犬や金魚を通じて生き物と触れ合おうとするダンカンの背中には哀愁がたっぷり滲んでおり、それは彼が隠遁生活を始めるモンタナの寒々しい雪景色の上にもしかり。
人生の生き甲斐を見つける為、隣人のカミールに誘われて小学校の臨時教師を引き受けてみるトコロなんかは、そのあまりの不器用さに胸が詰まりそうになってくる。
そしてそんな彼を苦しめ続ける過去の暗殺シーンのカットバックに、ダンカンが初めて心を通わせる事になる相手との秘密があるワケなのだが・・
マーベル的なアクションヒーローもの同様、背景に流れ続けるサントラが少々鬱陶しく感じてしまうかもしれないが、男のモノトーンなダンディズムをじっくり追求してみたい時なんかには、息抜きに劇中に出てくるウィンターコーヒーにたっぷりバーボンを仕込んで独りで惚けてみたくなる。
「ポーラー 狙われた暗殺者」はNetflixで観賞できます。