マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『オーヴァーロード』の私的な感想―J・J・エイブラムスプロデュースの新境地―

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Overlord/2019(アメリカ)/110分
監督:ジュリアス・エイヴァリー
出演:ジョヴァン・アデポ、ワイアット・ラッセル、マティルド・オリヴィエ、ジョン・マガロ

 J.Jエイブラムスの新境地

J・J・エイブラムスは期待を裏切らない。

本当はそんな出だしで絶賛したいのだけど、彼にはちょっとした過失がある。

 

敬愛するドラマ『LOST』の製作総指揮から脚本、監督、音楽まで熟してくれた彼の手掛ける作品の大ファンの一人として言わせて貰うと、彼はプロデュース力に大分難がある。

 

スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でライアン・ジョンソン監督に丸投げした演出なんかはその悪い例の一つで、薄めに同シリーズを見てきた自分からすれば、中々に面白いサプライズを織り交ぜてくれていたものの、歴史ある映画の世界観を崩してしまうのはちょっと頂けない。

更に新しいSF的な価値観を提示してみせた『クローバーフィールド』シリーズの成功で味を占め、欲張ってホラー要素まで取り入れてみた『クローバーフィールド・パラドックス 』は大コケ。

経験の浅いジュリアス・オナー監督の力量を見誤った事で、公開予定日から14ヵ月もの遅延を発生させ、劇場公開を諦めてNetflixに売り抜ける事でなんとか大赤字は免れたものの、彼が製作の肩書を務める作品は、その知名度とは裏腹に結構上手くいっていない。

この作品も、そんなネームバリューばかりが先行してしまった彼のシリーズものの一つとして注目を集めているだけかと思いきや、『クローバーフィールド』シリーズとは完全な決別の意思を持って臨んだ事もあり、意外に興趣が尽きない。

そこに実現されなかった映画版の『24』で辛酸をなめた脚本家、ビリー・レイに任せた事で予算も若干抑えられ、SF、戦争、アクション、ドラマ、ホラーとだいぶ欲張った割には案外シンプルなストーリー構成で、ギリギリだがB級映画とは一線を画す作品に仕上げてくれた。

 

マーベル系のアクション映画ではイマイチ盛り上がれない自分の様な人間でも、男心をくすぐる要素をふんだんに詰め込んだ、彼の新境地を切り開くプロデュース作品になったと言っちゃっていいんじゃないだろうか? 

 

 

 

 

あらすじ
1944年6月、第二次世界大戦下。
ノルマンディー上陸作戦が開始された直後、ナチス占領下のフランスに、侵攻作戦の成功を担う重要な使命を帯びた米軍・落下傘部隊が送り込まれる。
決死の激戦を経て生き残った兵士たちは、ナチスの要塞となった教会の塔に潜り込むが、地下にある謎めいたナチスの研究所で彼らが遭遇したのは、これまで誰もみたことのない敵だった――。
Filmarksより抜粋

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 ナチスドイツとダンディズム

戦争の狂気という前提があるからこそ、「奇妙なファンタジーの世界にいきなり投げ込まれても、こじつけだと感じずにすむんだ」

とエイブラムス本人も述べているように、彼のいつものサスペンス色はこの作品ではだいぶ鳴りを潜めている。

それでいて器用なJJ節は健在で、オーソドックスな戦争映画の観客をのめり込ませるテクニックはきっちり踏襲。

プライベート・ライアン』の壮絶な戦闘シーンを彷彿とさせる圧巻の冒頭から始まり、『フューリー』の“マシン”そのままの様な一兵卒が戦争の現実の中で成長していく様子、或いは戦火の中でも強く自我を保ち続ける女と、王道のディテールに強い既視感を感じる設定が多い。

更にそこに定番の少人数作戦と仲間達との友愛まで織り込めば、場合によってはゾンビ映画さながらの異質なクリーチャーの登場は要らなかったのかもしれない。

それでも、その際どいビジュアルからの残酷描写、苛烈な拷問シーンなんかもしっかり盛り込み、ラストの緊迫のバトルでは、金属音が響き渡る閉鎖的な空間内での痛さがたっぷりと伝わってくる。

と、なんだか勧めている自分の方が小難しく解釈しちゃってるけど、要するに彼の作品の中では極めて異例な、純粋にストレスを発散できる娯楽アクション作品を世に送り出してくれたわけだ。

おまけにSFホラー映画の金字塔『遊星からの物体X』のカート・ラッセルの息子、ワイアット・ラッセルを色っぽい役で登場させるとなれば・・

その冷静ながらも、哀愁漂う口元はバッチリ父親譲り。

彼も、百戦錬磨の凄腕なフォード伍長のプロフィールを徹底した役作りで落とし込み、周りの俳優達の設定の奥行までをもしっかり広げ、個性的なダンディズムを持つ俳優の風格を漂わせている。

往年の名作戦争映画『パリは燃えているか』をちょっぴり意識した彼のラストの台詞までは少し余計だったが、実際にアウシュヴィッツ等で行われていた人体実験の異質さ、その混沌の中で狂っていく将校の様子なんかには、ユダヤ系の血を引くエイブラムスの色濃いナチスドイツへの憎悪が十二分に伺える。

全体を通じて息をつく暇もない緊張感は流石にシンドかったが、少なくともいつもの小難しいレトリックを使わずとも、ワイルドサイドな男達の歴史アクション活劇をもしっかりと表現できる、一皮むけたエイブラムスの柔軟性に今後の希望をちょっぴり膨らませられる作品だった。

 

「オーヴァーロード」
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