マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『マリッジ・ストーリー』の私的な感想―冷静と情熱の間で立ち戻る女の分岐点―

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Marriage Story/2019(アメリカ)/136分
監督/脚本:ノア・バームバック
出演:アダム・ドライヴァー、スカーレット・ヨハンソン、アラン・アルダ、ローラ・ダーン、レイ・リオッタ

 女の分岐点

この映画を独りで見てしまった事を、後になって酷く後悔した。

“映画は誰かと一緒に見たい!”なんて世迷言は疾うに捨てたつもりだったけど、やっぱり女の分岐点を具に捉えたこの映画は、女性側の視点での印象がどうしても気になってしまう。。

 

タイトルからして「結婚」をテーマにしたこの作品は、失敗経験のある者にとってはちょっと手が出しづらかった。

・・今更、甘い結婚生活の夢を語られても・・・

なんて斜に構えてた自分に、粒子の粗いフィルムの質感で劇画チックなスカーレット・ヨハンソンのどアップ映像がいきなり飛び込んでくる。。。

 

ロスト・イン・トランスレーション』の頃は少しは可愛げのあった彼女は、私的にはちょっと苦手な女優だ。

風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラから命名されたという、正に荘厳華麗))(そうごんかれいな異名を持つ彼女からは、女性特有の柔らかさは殆ど感じられない。

その相手役となるアダム・ドライヴァーは、『スター・ウォーズ』シリーズで一躍脚光を浴びた俳優の様だが、こちらも、同シリーズをまったく見た事のない自分にとっては、大した思い入れもない。

そんな親近感が全く湧かない俳優同志の共演が逆に功を奏したのか、苦手なジャンルのラブストーリーが、意外にもすんなりと入ってくる。

更に同ジャンル特有の、コメディタッチに奇をてらう演出も殆ど見られず、怒涛の会話劇はいつの間にか中盤へ・・

離婚を期に、お互いの愛情を見つめ直す定番の展開に向かうのかと思いきや、スカーレットとアダム・ドライバーの間に生まれた溝は、どんどんと深まって行く・・・

 

136分と少々尺の長いそのシーンのつなぎ目には、まるで舞台の緞帳が下りる様に画面がフェードアウトしていくが、それでも二人の確執が沈静化していく様子は全くない。

やがてこの映画が、タイトルとは完全に逆説的な“デボース・ストーリー”=離婚物語である事に気づいた頃には、その二人のリアルな感情がぶつかり合う様に、すっかり引き込まれてしまっていた。 

 

 

 

あらすじ

テレビドラマ俳優から一躍転身。
LAでそこそこ脚光を浴びていた女優のニコールは、精力的に演劇活動に取り組むチャーリーとの結婚を機に、その舞台をNYへと移す。
しかし、稲妻に打たれた運命の出会いも束の間、二人の夫婦関係は次第に冷めきってゆき、遂にニコールは離婚を決意。
愛する息子の親権を巡り、二人の争いは法廷へと移る。
やがてお互いが用意した敏腕の離婚弁護士をも巻き込み、その争いはいつの間にか、泥沼に発展しそうになってゆくが・・・

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 冷静と情熱の間

若さに嫉妬する大人は、よく“燃え上がった恋は直ぐに冷める”的な格言を言いたがるけど、私的にそう感じる事は意外に少ない。

もし、それが事実になるとすれば、それはどちらかが臆病になり、感情を押し殺そうとした時ぐらいだろう。

或いは、恋愛自体にエネルギーを消費する事が消極的になった、波風を立てない人生を望む若い世代特有の抑制的な性に立ち戻ってしまう時か・・

 

劇中のニコールとチャーリーの情動は、一見冷静に見えても実は感情的。

序盤で、テンポのいいカットバックからいきなり長回しでニコールの様子を追うキャメラワークは、彼女がフレームから消えても一向に気にせずその姿を追い、溜め込んでいた夫へのストレスが高ぶっていく表情を只管に捉える。

ニコールの赤らんだ鼻やカモミールティーを啜る仕草等、その落ち着きを次第に失っていく一連の動作には、偽りのないリアルな感情がしっかりと滲む。

 

煽り目で彼女を捉えたアングルのバックキャンバスが、冒頭の漆黒の中に佇むステージ上とは対照的な真っ白い壁なのも、かなり特徴的だ。

この感情の対比を人物のバックカラーに乗せ、ストレートに観客に訴えかけてくる演出は、映画と言うよりは、どこか舞台演劇の感覚に近いのかもしれない。

 

圧巻だったのは、二人の主張が法廷論争に持ち込まれる前、最期にお互いが歩み寄ろうとした室内での一幕だ。

殺風景なチャーリーの新居で激情をぶつける彼らの演技には、思わず息が詰まった。

それは、二人が戻れない距離まで心が離れてしまっている事を、暗黙の裡に互いがしっかりと悟りあうシーンだったから。。

・・それでも、お互いがリスペクトしあう関係が、一時的な感情の起伏によるものではない事をしっかりと示唆しながら・・・

 

自分の持つ夢と生涯の伴侶との接点が次第に曖昧になっていく男は、そのつもりがなくても、それに付き従ってくれる女性側に、きっとどこかで甘えているんだろう。

 

やがて長年連れ添った糟糠))(そうこうの妻と別れそれぞれの道に進み始めるニコールの姿は、どこか儚くも健気に映るが、我が子を抱くチャーリーの靴紐を結ぶ彼女の気遣いだけで、その色あせる事のない愛情はしっかりと伝わってきた。

 

因みに全くの余談だが、『フィールド・オブ・ドリームス』で実在したシューレス・J・ジャクソンを演じたレイ・リオッタが、劇中で厚顔な弁護士役に扮してるが、その異常な迄に透き通った瞳がすっかり衰えている事に、自分の老いとが重なり合って見えてしまい、純情だった頃の少年時代の苦い恋愛経験の思い出が、ふと脳裏を霞めた。 

 

「マリッジ・ストーリー」Netflixで観賞できます。

www.netflix.com


上映スケジュールの確認はコチラから。。
www.mariblog.jp

 

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