Lo Imposible/2012(スペイン)/113分
監督:J・A・バヨナ
出演:ナオミ・ワッツ、ユアン・マクレガー、トム・ホランド
大地震の前兆
”スーパームーン”と聴くと、どうしても大地震を連想してしまう。
直接の因果関係は立証されていないにせよ、強まった月の引力は活断層になんらかの変化を与えてきそうだ。
この映画の元となる2004年のスマトラ島沖地震の際にも、発生から2週間後にこの現象が確認されており、それは東日本大震災の時も同様。
・・月の魅せる神秘の裏に秘める恐怖は計り知れない。。
観測史上最大級のチリ地震にも匹敵するマグニチュード9.1を記録したこのスマトラ島沖地震を映画化したこの作品の舞台は、タイのプーケット。
のどかな楽園のイメージのこのビーチを一瞬で壊滅させたその津波の威力は、高さ10m級の波が時速400キロの速さで2度も押し寄せたという。
日本では震災を受けた方々への配慮により公開が自体が危ぶまれていたが、2013年に東宝系にて何とか公開。
本国スペインでは『アバター』に次ぐ歴代興行収入第2位を記録し、ゴヤ賞(スペインのアカデミー賞)では14部門にもノミネートされた異例のディザスタームービーでもある。
日本ではリメイク版『ザ・リング』のイメージの強いナオミ・ワッツが、その迫真の演技でアカデミー賞とゴールデングローブ賞の優秀主演女優賞にダブルノミネートされた事も記憶に新しいが、本当の衝撃は、この作品が脚色を一切入れずに津波の体験記を記した真実の映画であるという点にある。
―――クリスマス休暇を利用して、タイのプーケットへとバカンスにやってくる一家。
夫のヘンリーは日本で研究員をしているが、将来への不安を吐露する。
甘えん坊のトーマスとサイモンの世話に追われ、一度は医者の道を断念していたマリアは、そんな夫に自分が仕事に復帰する事を提案。
長男のルーカスはそんなマリアに悪態をつきながらも、母を独占する弟たちへの嫉妬が未だ消えない。
5人は束の間の休息を過ごしクリスマスを迎えたが、明くる26日にやってきた大津波の前ではなすすべもなかった。
無力感に晒された者が出来る事
あらすじの設定まで細かく忠実に再現されたこの作品は、ナオミ・ワッツとユアン・マクレガーというハリウッドスターを起用した事により、実在のスペイン人夫婦をイギリス人という設定に変えてはきたが、モデルとなった主人公のマリア・ベロン氏の、
「この映画は正直に作られるべきだ」
という主張の元、全編に渡り作品の史実構成に本人が協力して実現させた。
そこら辺の当事者等の思いは作中にも色濃く反映され、音響も従来のサラウンドシステムの倍のチャンネルで録音されたimm soundを取り入れる程の力の入れ様。
自然音や津波の反響音等、徹底的に音質を追求したこの映画は、サラウンドスピーカーを使用して視聴するとその臨場感は計り知れないだろう。
しかしリアルを追体験する事だけがこの映画の醍醐味ではない。
劇中の登場人物たちの細かな会話、或いは極限状態での些細な心の機微等には、フィクションでは表せない本物の情動がたっぷり詰まっている。
そして実在のマリア・ベロン氏は、自分が元々女医だったにも関わらず、未曾有の災害の前では何も出来なかった無力感に晒されたのが、この震災の映像化を快く承諾した切欠だろう。
そんな彼らの思いが全て真実であるからこそ、この映画にはただのパニック映画では終わらない人の奥行が感じられる。
更に直視するのが厳しい程の現実に立ち向かう人の儚さから生まれる希望。
物語の冒頭には、浜辺に写る不気味な新月がしっかりと映し出されているが、被災した中でも健気に逞しく成長していく息子ルーカスの姿に、胸を打たれない方は稀な筈だ。
ルーカスを演じた当時15歳のトム・ホランドの鬼気迫った迫力もハンパないが、現実の彼が、現在、医者の道を志している事が震災で犠牲になった方達への何よりの弔いだろう。
この作品を観れば、そんな彼に何時か必ず起こるであろう突発的な震災時にでも、ルーカス同様、まったくの無力と開き直っている自分達に何ができるのかを、はっきりと示してくれていた。
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