La vérité/2019(フランス/日本)/108分
監督/脚本:是枝 裕和
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ
是枝裕和の海外デビュー作
・・すっかり海外市場に目を向けだした是枝監督は、もう、邦画業界に未練はないのかもしれない。。
香港映画『十年』の日本版リメイクをプロデュースし、何かと海外志向が強くなってきた同監督に、そんなちょっぴりさみしさを覚えながらも、彼の海外監督デビュー作品となるこの映画には、相変わらずの是枝節がたっぷりと滲み出ていた。
「どうせ海外で撮るなら、一番遠い相手と組んでみようかなと思ったんです。」
なんて平気で嘯く彼は、どうやって世界的な大女優のカトリーヌ・ドヌーヴを口説き落とせたんだろうか?
ましてやその役は、破天荒な彼女のプライベートそのまま。。
いくら家族愛を描かせたら日本一の監督と言えど、往年の巨匠監督でさえも手を焼く程の、フランス女優界のトップに君臨し続ける彼女を、言葉も通じない一介の日本人監督が、上手く料理できるとは到底思えない。
それでもドヌーヴの存在を、
「オードリー・ヘプバーンやマリリン・モンローのようなアイコン的存在。特別な存在ではあるけど、(起用するのに)現実味のない役者だった」
なんて、しっかり謙虚な姿勢を見せたのが功を奏したのか、スクリーン上の彼女は至って冷静に映る。
それを、カンヌ女優のジュリエット・ビノシュと、イマイチヒット作に恵まれないイーサン・ホークが、まるで彼らのイメージそのままに、ドヌーヴに翻弄されながらも軽快に立ち回る。。
生粋の映画ファンなら、まるでドキュメントを見せられているような錯覚にさえ陥りそうなこの映画は、ひょっとして、名優達の掌で踊らされてるかのような監督が、それを存分に楽しんでいただけだったのかもしれない。。。
あらすじ
フランスの映画スターのファビエンヌが自伝本を出版する。
お祝いのためにアメリカで脚本家として活躍する娘のリュミールと、彼女の夫と娘がパリにやってくる。
久々の再会に喜ぶ彼女たちだったが、やがて、自伝本の内容をきっかけに、隠された親子の秘密が暴かれていく。
Wikipediaより抜粋
記憶を塗り替える強い感情
実景から始まるファーストカットで、監督のブレない想いははっきりと伝わってきた。
彼はどこの国の家族を描くにも、その断片に
一見すると普通の家族に見えるファビエンヌ達は、相容れない側面を持つ芸能一家。
売れっ子の映像作家の娘は、B級連ドラ俳優の夫との間の子供が、不遜な祖母の影響を受けないかと、終始気が気ではない。
そして旬を過ぎても尚、大御所女優の貫禄を捨てきれない母親と娘との確執は、次第に広がってゆき・・
このキッチュな設定が嫌みに感じないのは、ハイセンスなフランス映画独特の情緒に守られているからだろうけど、それでも人間味を最も重要視する是枝ニズムは健在で、作品の至る処から、僅かな人の痛みを感じとる事ができる。
女優業に没頭し、娘を顧みれなかった母親。
そんな母親に縛られながらも、淡白に過去の因果を振り払おうとしている娘。
そしてその二人の人情喜劇は、嘘だらけの自叙伝の発表とマネージャーの引退を期に、歩み寄らざる得ない関係へと発展してゆく。。
まるで、木下惠介か小津安二郎あたりで、やっていそうな下絵だ。
この手の普遍的なテーマは、何時の世も変わらない。
けれど『海街diary』や『万引き家族』等で、古典的な家族愛のカタチに“真実”の追求を忘れなかった監督は、そこによりリアルさを掘り下げる為に、ちょっとしたスパイスを付け加えた。
それがリュミールの叔母であり、ファビエンヌの妹でもあるサラの存在だ。
この彼女は二人の会話劇に登場しても、写真ですらその姿を見せる事はない。
そこに是枝流とも言える、見えないそれぞれの
ファビエンヌが自殺した妹の面影を残すアンナに怯えるのも、俳優業界を鋭く見渡してきた監督なりの洞察力。
そしてそれとバランスよく対比するリュミエールの開眼ぶりは、マネージャーの洒落た気遣いや、庭に覆い茂る草木の移り変わってゆく様子に気付く事によって、自分の記憶さえも塗り替えていた、その母親からの強い感情の正体を知ってゆく。
問題提起意欲のあまりに強かった前作に比べれば、一際ハッピーエンドに写る作風ではあるけど、不器用なファビエンヌが娘との確執を乗り越えても尚、女優道を只管に猛進しようとする姿もまた、是枝流のもう一つの“真実”であると言える。
世界的な豪華俳優陣に囲まれる中、おどけた笑顔で折り合いをつけながらも、モニターを食い入るように見つめている監督の表情が、どうしても浮かんできてしまったけど、狡猾な迄に人の心の隙間を見抜く才能に溢れた同監督が、ファビエンヌの様に、その挑戦をどこまでも続けていく貪欲さがたっぷりと感じられた。
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