マリブのブログ

ニ匹ののら猫と一緒に随時三匹の飼い主を募集中の元帰国子女。。オススメの映画やドラマの感想を徒然に紹介しています。

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『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン8第6話の私的な感想―苦くて甘いエピローグ―(ネタバレあり)

GOT08-06-01

Game of Thrones The Final Season Episode.6/2019~(アメリカ)
製作総指揮:デイヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイス
出演:ショーン・ビーン、レナ・ヘディ、ニコライ・コスター=ワルドー、キット・ハリントン、エミリア・クラーク、ピーター・ディンクレイジ他

 歴史の転換点

前回のエピソードは、まるで歴史の転換点を見せられているかの様な気分だった。

跪いて忠誠を誓わない限り焼き滅ぼすというデナーリスの主張は、大国や倒錯した宗教家のそれにも実は非常によく似ている。。

 

中世の歴史をなぞっている様で、いつの間にかすっかり洗脳されてしまっていた自分達は、旧家であるターガリエン家にウェスタロス大陸の王位継承権があるかのように刷り込まれてきたが、そんな盲目な妄想は彼女の暴挙によって見事に打ち壊されてしまった。

デナーリスの挫折と這い上がりを幾度も目の当たりにしてきた視聴者にとっては、彼女の様子に娘の成長を見守っているかのような感覚に陥っている人も、きっと少なくなかったはず。。

 

慈悲の心に溢れ、正義を貫き、旧態依然の伝統をぶち壊す。

そんな理想的な若き君主像に、王座が近づく事によって徐々に狂っていく様子は、本当に空しくなる。。

 

アメリカではそんな狂王と化した彼女に納得がいかないのか、シーズンを丸ごと再撮する事を訴える署名運動まで巻き起こっているようだが、それはちょっとお門違い。

 

・・覚えているだろうか?

ゲースロはそのシーズン1の初回のエピソードから、近親相姦とそれを見てしまった子供の悲劇を描き、デナーリスはフルヌードまで披露して幼女の無垢さを見せつけてきた。

ジョン・スノウに至っては、まるでネグレクトを受けてきた些末な少年の様。。

つまりこのドラマは元々、論理破綻をきたさないハードファンタジーな上に、人の業を描く趣向が極めて強く、その架空だがリアル過ぎる描写に視聴者の目は釘付けにされてきた。

そんな彼らがいくら立派に成長したとしても、抱えてきた心の瑕は深く、自我を抑制できない少女と相変わらず自信を持てない少年のような二人の皮肉は、後味の悪さを残しつつも、非常に共感を抱ける。

なので彼らのその冒険の最期にどんな悲劇が待っていようとも、それを視聴者はある程度の覚悟を持って受け入れてあげるべきではないだろうか?

長年かなりのリスクを背負う規格外の予算の中、自分達の妄想を大いに膨らませ続けてくれた製作陣に対する感謝と、未完の原作への敬意を払うためにも。。

 

シーズン8第5話の感想はコチラ

 

以下、『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン8第6話のネタバレを含んだ上での感想です。

まだご覧になってない方はご注意下さい。

 

 

 

 

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 鉄の玉座

焦土と化したキングスランディングを歩くティリオン。
その余りに無残な光景に言葉を失い、後をついてきていたジョンとダヴォスとも別れ、彼は一人レッドキープを目指す。。

捕虜となったラニスター軍の兵士を処刑しようとしているグレイワーム。
ジョンはそれを止めようとするが、復讐に燃えた彼の耳には届かず。
やがてジョンはダヴォスからの忠告により、デナーリスを探し始めるが。。。

崩れ落ちた城の中庭にやってきたティリオン。
彼が煤に塗れたトーチを拾い上げ城の地下までやってくると、その瓦礫の下から抱き合ったまま埋もれ死んでいるサーセイとジェイミーの姿が写る。
声を上げ嘆き悲しむティリオン。

崩れた王城に集結するドスラク人とアンサリード。
ジョンはそんな彼らをかき分け、ドロゴンに乗って舞い降りるデナーリスの元へと歩き続ける。
アリアはそんな彼女に憎しみの表情を浮かべ・・
やがてデナーリスが演説を始めると、ドロゴンの雄叫びと共に歓喜に沸く兵士達。
ジョンはそんな彼女の様子に一抹の不安を覚え始めるが・・・

彼女の脇に立つティリオンは、デナーリスの暴挙に限界を感じ、王の手の証を投げ捨てる。
やがてジェイミーを逃がした反逆罪に問われた彼は、アンサリードに連行されてゆく。
ジョンの元に忍び寄ってきたアリアは、デナーリスの目に宿る狂気を彼に諭すが・・

捕らわれの身となったティリオンの元へとやってくるジョン。
ティリオンはジョンに感謝の意を述べ、自分が向かうであろう死後の有様を彼に聞く。
その忘却の世界に自分は安堵を覚えながらも、デナーリスの尽きる事のない解放の戦いの決意に彼は嫌悪感を露わにしていく。
やがてティリオンの言葉によって、倒錯してゆく者の宿命に気づかされていくジョン。。
そしてそんな彼女を愛する者として、自分に出来る事も・・・

 

灰の舞い散る鉄の玉座の前へとやってくるデナーリス。

その喜びに打ちひしがれる表情。。

彼女がそこへやってきたジョンに、自分の信念を語りだそうとすると・・

 

正義の名の元に、王都で行われていた虐殺被害を痛烈に訴えだすジョン・スノウ。
デナーリスはそんな彼の言葉にも耳を傾けず・・
ジョンを抱き寄せ、理想の千年王国を築く夢を語るデナーリス。
そして二人は、激しく口づけを交わすが・・・

デナーリスの胸にジョンの短剣が突き刺さる・・・・

言葉もなく崩れ落ちるデナーリス。。

やがてやってくるドロゴンは主の死を知ると、ジョンに雄叫びの様な咆哮を上げる。

死を覚悟したジョンを横目に、玉座に向けドロゴンは火炎を吐き出す。

無数の剣で作られた鉄の玉座は瞬く間に溶け出してゆき、ドロゴンはデナーリスの亡骸を抱き、何処へともなく羽ばたいてゆく。。

 

薄暗い部屋の中で目を覚ますティリオン。
やがてやってきたグレイワームは、彼をスターク家を始め、サム、ブライエニー、ダヴォス等、生き残った諸侯が集まるドラゴンピットへと連行してゆく。

ジョンの釈放を求めるサンサ達に対し、頑なに自らの正義を貫こうとするグレイワーム達との間で口論が始まると、そこに割って入ってくるのはダヴォス。
彼は亡きデナーリスの功績を認めた上で、アンサリードにその賠償としてリーチの土地を与えようとするが・・
女王の正義を求めるグレイワームはそれを認めない。。

やがてティリオンがか細く声を上げ・・

グレイワームに恫喝されながらも、新王の推挙を提案するティリオン。

徐に立ち上がるエドミュアを往なすサンサ。
サムが提案する全ての民衆からの選挙案には、貴族の称号を纏った諸侯達からは失笑が零れる。
やがてダヴォスがティリオンに候補案を聞くと・・

彼はすべての民を団結させる自論を語り始める。

それは、軍でも、金でも、旗の色でさえもなく、“物語’を持っている者だと。。

そして彼は不自由な体を持つ、ブランに新王の座に就く事を嘆願。

彼はその申し入れを快く受け入れ・・

独立の姿勢を貫く北部の意思を受け継いだサンサを除き、新たに六王国の建国が全会一致で決議される。
新王となったブランはグレイワームの反対を押し切り、嫌がるティリオンにその罪の償いとして、“王の手”の座としての贖罪を要請し・・・

 

捕らわれの身となっていたジョンに、事の顛末を説明しにやってくるティリオン。
そして新王の折衷案として、ジョンをナイトウォッチに戻す決断を下した事を告げる。
ため息を漏らすジョン。
彼は、相変わらず自分の下した決断に自信が持てないままでいると、ティリオンは、
十年後にもう一度聞いてくれ」と・・・

解放されるジョンを眼下に見下ろし、ナース島への出航準備を進めるグレイワーム。
サンサは自分達の王を救えなかった事に謝罪を述べた上で、久方ぶりの兄妹の再会に胸を熱くさせる。
アリアはそんなジョンに、ウェスタロスを離れる決断を語り、船に乗って旅立つその背中を見送る。。

 

新たなキングスガードに就任したブライエニーは、名家の歴史書に目を通している。
やがて“キングスレイヤー”の汚名を背負ったジェイミーのページまでくると・・
彼女は徐に筆をとり、その歴史を最期まで書き添える。
その言い知れない思いを纏ったブライエニーの表情。。

“王の手”となったティリオンの様子。
彼は新たに編成された小議会に向け、その規律を保つ為テーブルの椅子を直している。
やがてハイガーデンの領主兼財務大臣となったブロン、海軍大臣となったダヴォス、グランドメイスターとなったサムが続々とやってきて・・

「氷と炎の歌」と題された本をティリオンの前に置くサム。
シダテルのアーチメイスターによって書かれたその本を彼は恐る恐るめくるが、彼の武勇伝は一行もそこにはなく・・・

やがてやってくるブランに、慣れない敬意の言葉を述べる一同。
そしてブライエニーも交え、尽きる事のない難題に取り組んでいる彼らの微笑ましい風景には、窓の外から明るい日差しが差し込んでいる。。

 

キャッスル・ブラックへと戻ってきたジョンを待ち構えているのは、トアマンド。
そして城門は閉まり。。

ニードルを腰元に挿し、旅路の支度をするアリア。

女王に信任されたサンサは、マントを纏いウィンターフェルの廊下を歩く。

船の甲板を歩くアリアの様子が、そこにオーバーラップし・・

野人達をかき分け、片耳が千切れたゴーストの元へ歩き出すジョン。
ゴーストはそんな彼に、愛おしそうにすり寄り・・・

船主に立ちまだ見ぬ海の果てを見据えているアリア。

ジョンはトアマンド達と共に壁の門を抜け・・

王冠を授かったサンサに剣を掲げる北部の旗手達。

アリアの乗る船の帆にはスターク家の紋章が風に靡く・・・

ゴーストに導かれ、壁の北へと旅立ってゆくジョンの傍らには、トアマンド等をはじめとした無数の野人達が付き従って歩き出してゆき・・・・

 

 

 

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 ・・なんだか苦笑いしか浮かばない。。

ネット上に溢れていたアリアが殺す掲示を受けた緑の目の相手の正体も、期待していたヤーラ、ダーリオ等の援軍、更にはエラリア・サンドの顛末までもおざなりのままあっけなく終了してしまった事で、もう殆ど放心状態。。。

 

結局は狂王と化したデナーリス一人の死でその全てが片付いてしまい、それぞれのキャラが自分達の元居た場所に戻っていく様子をみていると、無性にやるせない思いにかられてしまう。

更にはPVであれ程までに見せつけてきた誰もいないウィンターフェル城の様子にも、なんの解釈もなく、シェイクスピア的カタルシスを期待していた自分にとっては、酷く困惑してしまう。。

 

この視聴者全員の期待の遥か斜め上を行く顛末は、どこまで計算されていたのだろう?

その答えは、このドラマのテーマを読み違えていた自分達にあるのかもしれない。。。

 

奴隷解放を連呼するデナーリス、グレイワーム等には、自分はかなり早い段階から実は興ざめしていた。

それは彼らの叫ぶ正義の裏側に、デマゴーグ的な指導者の面影を感じていたからだ。

 

エッソスの奴隷兵だったグレイワームにとって、正義とは自分の感情を開放する事

それは、幼少期から辛酸を嘗めてきたデナーリスにとっても、例外ではない。

つまり彼らの主張する正義は、当初から純粋に誰かの為に対するものではなく、捕らわれ続ける自らの心の瑕を癒す為に発露した感覚と言えるのではないだろうか。

しかしその彼らの同情を感じずにはいられない成長ぶりに、視聴者の多くは自分達の望む希望を勝手に見出してきた。

 

けれど彼女の死はいきなり訪れる。

それはシーズン2のクァースの黒魔術師の館で垣間見た、鉄の玉座に触れた直後に出逢うカールドロゴとの再会によって暗示された彼女の死のヴィジョンをなぞるように・・

 

しかしここでのポイントは、その彼女の瞳にアリアたちに諭されたようなジョンへの警戒心が、一ミリも感じえない事だ。

そこはまがりなりにも、マッドクウィーンへと変貌したデナーリスのもっと数奇でドラスティックなバッドエンドを期待していてしまったのだけれど。。

 

この感覚のズレは、5話までに巻き起こった彼らを取り囲む数々の悲劇のおかげで、すっかり確信に変わっていたのだけど、実はこの皮肉こそが『ゲーム・オブ・スローンズ』を通じて製作陣が伝えたかった事だったのかもしれない。。。

 

思い返せばこのドラマは、タイトルロールの段階から、王位継承に翻弄されていく国々の様子を痛烈に揶揄してきた。

それは機械仕掛けで組み立てられていく各都市の模型にもしっかりと複写。

 

つまり、デナーリスの掲げる妄想の正義を終わらす為には、感動的なハッピーエンドも、文学的なカタルシスさえも必要なく、同じ妄想の純情を語るジョンの血迷った刃がまさにうってつけなのだ。

この壮大な皮肉こそが、王位継承権を巡るグレート・ゲームの様相を錯覚させてきた『ゲーム・オブ・スローンズ』の一番の醍醐味だという事を、自分は何時の間にかすっかり忘れさせられてしまっていた。

この線でドラマの本質を紐解いていくと、様々な伏線を張り巡らせ踊らされてきた視聴者さえも、実はそのゲームの一駒にしか過ぎなかったのかもしれない。。。

そんな中でも最大の皮肉と言えば、、

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・・人間よりもドロゴンの方が、鉄の玉座の虚しさを一番理解していたという・・・

 

もはやこのドラマの語り部の様なティリオンが、原作の『氷と炎の歌』と題した劇中の歴史叙情詩に一切記されないというシニカルさも、ゲースロならでは。

王の手に復活した彼等が取り囲む円卓の行政の様子なんて、なによりもそんな皮肉をしっかりと表し、意義を失くし兜を脱ぐグレイワームら、アンサリード、ポピュリズムな素人政治を提唱するサムの主張なんかからも痛烈に伝わってくる。

 

とは言え、何処へともなく壁の北へと旅立つジョンや、ウェスタロスから離れ最西の冒険旅行に出かけるアリア、更にはティリオンの「物語が人を繋ぐ」という最大のアイロニカルな表現には、どうしてもスピンオフシリーズへの期待と原作への配慮をちょっぴり潜めた製作陣の忖度が伺えてしまうのだけど・・。

 

投獄されたティリオンがジョンに語る台詞からは、現実世界の大国が掲げる血迷った正義に対する風刺が効き過ぎていて、原作者の言葉よりはだいぶ辛辣な、苦くて甘いエピローグだった。

・・彼女が現れれば悪人は死んだ。
そして我々は彼女を応援した。
彼女は力が増すほど自らが正義だと確信した。
すべての人の為により良い世界を作ることが自らの運命だと信じている。
それを本当に信じるなら、その楽園づくりを妨げる者を殺すと思わないか?


劇中のティリオン・ラニスターの台詞を引用

 

・・多様性を擁護したかったのか、独立した北の王国を建国するサンサの主張にも、初の障がい者としてのブラン王の誕生にも全く魅力は感じられなかったけど、愛するジェイミーの歴史書にその顛末を書き添えるブライエニーの様子にだけは、見ていて本当に胸が苦しくなる。

“キングスレイヤー”の汚名を背負った彼の名誉を挽回する為に、その武勇伝を必死に付け加えた上でも、彼がその死の間際に守り抜いたサーセイの名を敢えて実名表記せず、女王と記した彼女の心境はどれほどのものだったのだろう?

 

『ゲーム・オブ・スローンズ』
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