マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『ボヘミアン・ラプソディ』の私的な感想―史実を越えてフレディが残したもの―

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Bohemian Rhapsody/2018(アメリカ)/135分
監督:ブライアン・シンガー
出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボーイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ

 グラムロック界を駆け抜けた伝説の男

音楽の秘める可能性が、この作品にはすべて集約されている。

それは情動であり、希望であり、信念であり、愛情。

近頃の日本ではだいぶ首を傾げられてしまいそうな、そんな夢物語を見事に叶えてくれたのがこの映画の主人公であるフレディ・マーキュリー。

颯爽とグラムロック界を駆け抜けていった彼の伝記映画のような触れ込みで、一部の熱狂的なクイーン信者からは少々辛辣な意見が出ているようだが、そんなことは大した問題ではない。

 

映画という着地点を見据えた中で一番重要な事は、その時系列的な事実の相違ではなく彼の魂

 

どんな歴史上の人物を描いても、その映像化にあたって必ず脚色は存在する。

監督や製作サイドはそこに主観に基づいた上での人物像を浮かび上がらせ、そして相手が故人なのであれば、その心情を限界までくみ取って観客に伝えるのが表現者の義務でもある。

つまり、その想いが正確に伝わりさえすれば、それはエンターテインメント作品としては一級品。

この作品は、そんな類まれなる才能を秘めた一人の男の成功と迷いの日々をきちんと説明した上で、観客に溢れんばかりの激情をもたらしてくれる、正にキャッチコピー通りの彼らの音楽を唯一越える彼の物語だ。 

 

 

 

 

 

あらすじ
複雑な生い立ちや、容姿へのコンプレックスを抱える孤独な若者だったフレディ。
彼が出会ったのは、のちに“生涯のファミリー”となり、音楽史にその名を残す事になるバンドのメンバーたちだった。。
公式HPより抜粋

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 サブハーモニクスの歌声

作品の弁解から書いてしまったけれども、自分がクイーン好きかと問われると、あまりそうでもない。

彼らの世代の温度感をリアルタイムで知らない為かもしれないが、70年代から80年代にかけてのイギリス音楽シーンの先駆者と言えば、やっぱりビートルズ。

オシャレでポップな彼らたちの影に隠れ、大衆迎合音楽的な要素の強いイメージがどうしても付きまとってしまうフレディ・マーキュリーとそのバンドには、更にその後、HIV感染者としての末路に俗世間的な雰囲気を感じてしまい、イマイチ興味を抱けなかった。

 

この作品に出逢うまでは・・

 

アルバムとシングルの累計セールスが3億万枚を超えるこのモンスターバンドのボーカルが、タンザニア生まれのペルシャ系インド人だった事を、皆さんはどこまで知っていただろうか?

彼のその複雑な生い立ちは作品に描かれているので割愛するが、時代背景的に察してみるトコロ、その感性は自分たちの想像を遥かに超すレイシズムの中で培われていったものなのだろう。

 

彼の歌声は4オクターブの音域を持つ七色の歌声なんて言われていた様だが、最近の研究でそれは覆され、彼は常人なみのバリトンボイスだった事が実は判明している。

それでも同バンドのギタリスト、ブライアン・メイにしてその歌声を、

「スタジアムの最も離れた後ろの人まで、彼と繋がっているように感じた」

とまで言わしめたその秘密は、サブハーモニクスと呼ばれる彼特有の歌唱方法。

その巧妙に喉を振動させる“うなり声”のルーツは、トゥバン(喉歌)と呼ばれる中央アジアのアルタイ山脈に伝わる特殊な歌い方にまで遡り、更に彼が紡ぎ出す愛情表現豊かなリリックからは、山岳民族の友愛の精神にも似た温もりを感じられる。

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 圧倒的な再現力

彼の音楽性のルーツとその博愛心を描いた描写もとても興味深いが、この映画の中でのフレディが一際輝いて見えるのは、やっぱりその再現力

フレディを務めたラミ・マレックは彼の外見だけをなぞるのではなく、その音楽性の裏に秘めた複雑な人間性にまでしっかり触れ、コンプレックスを抱いていた青年期から、自信が開花していく壮年期迄の細かな仕草を見事にトレース。

その役作りには異例ともいえる1年半の月日を費やした事で、殆ど故人が憑依したとしか言えないくらいの完成度の高さ。

更にドラマーのロジャー・テイラーを演じたベン・ハーディは、毎日10時間以上のドラム練習を積み、ベーシストのジョン・ディーコンを演じたジョゼフ・マゼロは、現在隠遁生活をしている本人同様、劇中でも常に一歩下がった存在感を示している。

そしてリードギターであるブライアン・メイを演じたグウィリム・リーには、ブライアン・メイ本人が撮影現場に訪れて直接アドバイスした事もあり、その風貌から細かい仕草に至るまで直々のお墨付きを得ている。

そして誰しも心を揺さぶられてしまう圧巻のラスト「ライヴ・エイド」での演奏シーンには、フレディ本人が亡くなるまで彼のパーソナルアシスタントを務めていたピーター・フリーストーン監修の元、細かな小道具の配置やアンプやペダル、タバコの吸い殻の本数から壁のはげ方までをも完全再現。

脚色ではあるが、カメラ向こうの母親にキスをするタイミング等は、HIVに侵されていたフレディ・マーキュリーの情念そのもので、CG合成と言えども述べ900人のエキストラを動員して作られた圧巻の観客席の映像は、四半世紀を過ぎた現代に熱い当時の空気感を蘇らせてくる。

 

 

 

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 ボヘミアン・ラプソディー

そして話は元に戻ってしまうのだけれども・・

この映画の醍醐味は、やっぱりフレディ・マーキュリー自身の人間性にある。

 

彼の音楽においてどんな有名アーティストとも相違する点は、その共感力

誰しもが一度は耳にした事があるであろう「We Will Rock You」の楽曲誕生秘話などは正にその境地で、彼らから常に感じる一体感はその感情移入能力を極限まで突き詰めていった結晶である事がうかがえる。

なにしろこの楽曲は、ブライアン・メイのリードギターが入るまでの冒頭からの1分30秒間、彼らと観客との手拍子と足音だけで演奏されているのだから。。

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他にも「We Are The Champion」や「Somebody To Love 等、彼らがギター・オーケストレーションを用いて作り上げた世界的なヒット曲となった賛歌は限りなく存在するが、ではなぜ彼らの半生を描いたこの作品のタイトルが『ボヘミアン・ラプソディ』なのか?

それはこの映画がクイーンの伝記的サクセスストーリーであると共に、フレディ・マーキュリー自身が倒錯していくその様までをもしっかり描いたヒューマンドラマであるから。

 

75年にリリースされたこの「Bohemian Rhapsody」は、翌年の76年にビルボードの週間ランキングで9位を獲得したが、その後の年間ランキングでも18位と当時の彼らの勢いの中ではそれほど上位には至っていない。

それでも年を追うごとにその人気は徐々に上がり続け、2002年にギネス・ワールド・レコーズ社が3万人以上からアンケートをとった結果では、ジョン・レノンの「イマジン」やビートルズの「ヘイ・ジュード」、「イエスタディ」等を悠々抑えて、英国史上最高のシングル曲とされている。

タイトルのボヘミアンとは転じて放浪者の意味合いも持ち、バンドメンバーの4人が闇に浮かび上がる演出のこの楽曲は、ソフトなピアノバラードから始まって、訴えかけるようなフレディの“mama~”と言う台詞がやけに印象的だ。

つまりこの彼の苦悩こそがフレディ・マーキュリー誕生の原点でもあり、古風で学識の高い両親に対するセクシャリティな疑問を抱き始めた贖罪の意識

そんなマイノリティの性を、静かなハイトーンボイスのアカペラから、バラード、オペラ、ハードロックとその音色を変え訴えかけている様子は、フレディ・マーキュリーとなったインド人の少年・ファルーク・バルサラの叫び声そのもの。。

 

X-MEN』̪シリーズ等で有名なブライアン・シンガー監督の降板劇等、非常にセンシティブな温度感の中で醸成されてきたそのラプソディが、衝動に突き動かされる事を拒みがちな日本人の心を大分深く抉ってきた事実に、彼はあの世で今何を想ってるのだろう?

 

「ボヘミアン・ラプソディ」
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