マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『バード・ボックス』の私的な感想―あれを見てしまった人間達は・・―(ネタバレあり)

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BIRD BOX/2018(アメリカ)/124分
監督:スサンネ・ピア
主演:サンドラ・ブロック/トレヴァンテ・ローズ、サラ・ポールソン、ジョン・マルコヴィッチ、ジャッキー・ウィーヴァー

 現代社会の一片を切り取ったディストピア

すべての終わり』に続き、Netflixがポストアポカリプス映画にも本格的に参戦し始めてきたみたいだ。

ドラマ作りはともかく、映画というジャンルにおいてはイマイチ良作の少ない気もしていた同社のオリジナルコンテンツだけど、その目覚ましい急成長ぶりの中で着実に力をつけつつあるような気がしてきている。


ユニバーサルから引き抜いたプロデューサーのもと、『未来を生きる君たちへ』で2010年のアカデミー外国語映画賞を受賞したデンマーク出身の女流監督スサンネ・ビアを迎え、脚本には『メッセージ』の脚色で注目を浴び、ハリウッド版『君の名は。』を手掛ける事も決まっているエリック・ハイセラーを抜擢する等中々に本格的。

出演する俳優陣も言わずと知れたジョン・マルコビッチを始め、陸上選手から転向し『ムーンライト』で注目を集めたトレヴァンテ・ローズや『パティ・ケイク$』で強烈な女性ラッパーを演じたダニエル・マクドナルド等の豪華キャスト等が顔を揃え、オーストラリアの名女優ジャッキー・ウィーヴァーなんかもちゃっかり老婆役で出演したりしている。

そんな中でも主演を張るサンドラ・ブロックは、久しぶりに見事な陰キャラを熱演してくれたが、SF映画でありながらもストーリーの軸に親子の愛情を持ってきた事が何よりも評価できるポイントだろう。

 

カーゴ』や『28週後...』なんかでもアポカリプスな世界での家族愛は昨今よく描かれる様になってきたが、この作品の主人公・マロリーは家族を持つこと自体を否定してきた女性

 

そんな一見自立している女性の様で、心の奥底に人に対する恐怖心を抱え続けている彼女が変容していく様子がしっかりと見て取れるこの作品は、隣人への不信感を募らせる現代社会の一片を見事に切り取ってみせたディストピアだ。

 

 

 

 

あらすじ

思いがけず子どもを身ごもったアーティストのマロリー(サンドラ・ブロック)は、ある日突然訪れた世界の終焉と人類滅亡の危機に直面する。
残された幼い命を守れるのは彼女だけ。
生き残るためにできることは決して“その闇“を見ないこと。
マロリーは決死の逃避行を決意する―。

Filmarksより抜粋

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 あれを見てしまった人間達は・・(※以下、ネタバレあり)

音を出したら終わりな『クワイエット・プレイス』や息を殺さないとアウトな『ドント・ブリーズ』なんかと比べると、冒頭から何の説明もなく目隠したままで登場する母子のサバイバル生活には一瞬戸惑うけれど、それは過去と現実とのフィードバックを巧みに見せていく演出の中で、案外素直に観れてしまう。

しかし逆に言ってしまえば、この終末世界を描く上での最大のキモである生存者が最初からモロバレしているので、スリラー的要素はあまり多くを求め過ぎずに観た方がいいのかもしれない。

それでも現実の殺風景な自然の中を生き抜く母と子の様子と、崩壊後の世界で徐々に追い詰められていく人間達の心理描写との対比は中々にバランスが良く、マロリーが子供たちに抱える葛藤はその過程を辿る過去エピにしっかりと織り交ぜられている。

 

そのエピソードの中でも一番秀逸なのは、やっぱりそれぞれの人間模様。

崩壊前の世界でマロリーが“繋がりない人間関係”と題したアーティスティックな風刺画を描いている様に、劇中の殆どの人物はそれぞれどこか排他的。

更にタイトルそのままの様な、追い詰められた末の閉鎖的な空間の中で繰り広げられるその人間達の醜態ぶりには、世の虚しさが如実に表されていて随分寂しく感じられてしまう。

私的には映像処理の工夫や音楽、或いはちょっとしたサプライズな展開なんかも期待してしまったのだけども、正に見た目通りのキャラクターが分かりやすく倒錯してゆく様子は、監督が意図的にその社会の縮図を描きたかった為なんだろうか?

 

視覚的には、目隠しをしながら森を歩くというちょっとアブノーマルチックなビジュアルが何とも言い難い不気味さを盛り上げてくれていたが、やっぱりどうしても気になってしまうのは彼らが見てしまう“あれ”の存在。

ウィルスや細菌兵器、或いは劇中の人物がしっかり説明してくれる悪魔的な何かの降臨劇のようなその正体は結局ラストまで明かされないまま終わってしまうが、闇に魅せられた人間達がそれを見ても自殺衝動にかられない事から鑑みても、それは人知を超えた未知の生命体から発せられる何かだったんだろうか?

 

と咀嚼していくと注目せざるを得なくなるのが、マロリーが連れ歩く二人の子供の存在

これはどうやらラファエロの描いたヒワの聖母をモチーフにしているらしいが、彼女は子供たちが視覚を持たなくても生き延びられる様に、夢や希望、更には彼らに愛着や思いやりさえも持たせぬよう育て上げるが、その信念は血の繋がりのない娘に自己犠牲の精神が芽生えていた事が発覚した時点で、あっさり氷解してしまう。

裏を返せば、彼女が某国の大統領のような孤立主義を深め、現実思考そのままにもし娘を犠牲にしていたのであれば、彼女は“あれ”を見ても生き延びられるダークサイドの人間に堕ちていったのだろう。

そんなアイロニカルな展開に着地させなかったのだとすれば、彼女の恋人の台詞通り、

「実現しない夢でもいいから、人は明日死ぬかの様に誰かを愛する。そんな夢や希望や母親が必要」

なのかもしれない。。

 

それでも彼女達を助ける為に死んでいった父親代わりの彼の名をいきなり名付けられてしまった息子の戸惑う様子には、どうしてもちょっと同情してしまうのだけれども・・

 

「バード・ボックス」
Netflixでのみ観賞できます。

www.netflix.com

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