Arlington Road/1999(アメリカ)/117分
監督:マーク・ペリントン
出演:ジェフ・ブリッジス、ティム・ロビンス、ジョーン・キューザック、ホープ・デイヴィス
ティム・ロビンスの瞳
・・タイトルからすると、まるで日本に挑発的な態度をとる韓国の裏に隠れたかの国の様だけど・・
主演のジェフ・ブリッジスは『オンリー・ザ・ブレイブ』では主人公の親友を演じた中々の技巧派だが、無冠の名優と謳われた様に彼にはあまりピンとくる代表作がない。
それでも何故か彼の顔を覚えてしまっているのは、きっとこの作品のおかげだろう。
映画公開時の99年、アメリカでは緩やかな経済成長の元、当時不倫疑惑が取りざたされた大統領を弾劾裁判にかけてみたりして遊んではいたが、後に起こるアメリカ同時多発テロの恐怖を未だ知らない。。
とはいえ、この作品のモチーフとなった95年のオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件はジャックバウアーでお馴染みの『24』なんかでもオマージュにされている9・11に次ぐ米国史上2番目に犠牲者を出したテロ事件だが、関係者でもない限りその記憶はもうだいぶ薄くなっているだろう。
そんな時代だからこそようやくVODでも解禁されたこの作品は、まずその的を得た抜群の邦題も含めて、原題の意味合いにも中々のハイセンスを感じさせる。
“アーリントン・ロード”とはその名を掲げた国立墓地にもあるように、アメリカの中でもどこか風格のある街並みに付けられる傾向がある。
つまりちょっと昔風に言えば、ハイソなサバービア(郊外)なわけだ。
そんな一見気品に満ちた上流階級の閑静な住宅街の一角で、突如として湧き上がる不信感を盛り上げてくれているのは、やっぱりティム・ロビンス。
『ショーシャンクの空に』で一気にスターダムにのし上った魅力的で知性溢れるその透き通った瞳の奥底に、言い知れぬ怖さを感じたヒトはいないだろうか・・?
―――FBIの刑事だった元妻をとある事件で失くした主人公のマイケルは、学生にテロリストの歴史を教えている大学教授。
彼は一人息子のグラントと共にその悲しみを乗り越え、元教え子だった大学院生のブルックを新たな人生のパートナーに迎えいれ、平凡だが細やかな幸福をようやく掴みかけている。
そんな折、アーリントン・ロードで大ケガを負っていた少年・ブレディを助けた事から、彼は向かいに住むその家族たちとの親交を深める事となる。
ブレディの父親は優しそうな長身の設計技師、オリヴァー。
その妻のシェリルも、誰にでも人当たりの良さそうな穏やかな性格。
やがてマイケルは家族ぐるみでの付き合いを通じ、オリヴァーの秘められた過去に不信を抱き始める・・
絶妙なキャスティングと人物設定
隣人への不信感を只管煽ってくるこの映画は、今見返して見ると確かに演出がすこぶる上手い。
それは歪んだフレームでみせる人の疑心暗鬼具合だったり、ダークな音色のサントラだったりもするが、やっぱりその人物設定が中々奥深い。
警察のずさんな捜査のおかげで妻を失った主人公のマイケルは、あらすじにも述べた通り、それでも希望を持ち続け日常を送っている実直なホワイトカラー。
母親の死にトラウマを抱え、まだ父親の新しい恋人を上手く認知出来ずにいるその一人息子に彼が出来るコトは、せめて友達を作らせるコトくらい。。
しかしそんなマイケル自身もテロリストと国家権力の両方に憤りを覚え、講義にはつい熱が籠ってしまう。
少々情緒不安定だがそうして懸命に生きる彼が、怪我をした近所の子供を助ける事から始まるこの物語は、如何に観る側が構えて挑んでいたとしても、ものの10分足らずで彼にそれなりに感情移入出来てしまうだろう。
更に疑う事よりも隣人への愛を生徒たちに説いていた彼が、ティム・ロビンス演じるネイバー達との親交を深めていくのも必然ではあるが、それでも警戒心は怠らない。
やがてそんなマイケルがネイバーの秘密を暴こうとする過程でも、周囲からの愛情深い本能的な優しさを受け、その猜疑心を打ち消そうとする様は本当に考えさせられる。
つまりそれは、有識者層が理想に掲げる博愛精神の象徴でもあるのだが・・
実はその全ての感情が、あの透き通った瞳の男の手の上で、緻密に計算され尽くした計画だったとしたら・・
この作品にはグロさも派手なアクションも一切ないが、絶妙なキャラの俳優陣のキャスティングも踏まえ、観る者を絶望的な感情に陥れるある巧妙なトリックが冒頭から仕込まれている。
ラストにはあまりにも愕然としてしまう結末が待っているのだが、この作品の公開2年後に大統領となったブッシュJrが、子供さえも巻き込み強い信念を貫こうとするテロリスト達に怯え、倒錯しながらも日増しにその恐怖心を強めていった事に、少し同情してしまいそうにさえなってしまう。。
『隣人は静かに笑う』は
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