マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『櫻の園』の私的な感想―禁断の花園に漂う、淡い春の思い出―

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櫻の園/1990(日本)/96分
監督:中原 俊
出演:中島 ひろ子、白島 靖代、宮澤 美保、つみき みほ

 珠玉の名作。儚い少女達の群像劇

最初に一人で観た邦画だったような気がします。

幼少期の頃は母親と、大人になってからは大抵パートナーと。

誰かと感動を共有出来るコトが嬉しくて貪るように数多の映画を見漁りましたが、この映画だけは一人でじっくり見たい作品です。

 

というか、誰かと分かち合うにはこの映画はちょっと小っ恥ずかしすぎるかも。。

 

 

 

 


―――舞台は桜に囲まれた郊外の女子高の演劇部。
創立記念日に向け伝統あるチェーホフ作の舞台劇「櫻の園」の上演の為、慌ただしく駆けずり回る少女達。
舞台開演2時間前、早朝の部室で忽ち起こる騒動によって、彼女達は次第に翻弄されていく・・

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吉祥天女」や「海街diary」等で当時から有名だった吉田秋生の原作漫画をアレンジし、その世界観を見事に描いた中原俊監督の代表作で、興行成績的にもかなり素晴らしく、数々の映画賞も受賞した本作品ですが、スタッフ以外のキャストでは現在でも第一線で活躍されている俳優陣はほとんどいません。

2008年にこの作品がセルフリメイクされた時には、数々の著名で優秀な女優が出演していますが、正直、元祖を超す評価は得られませんでした。

そんな中でこの作品が自分にとって未だ邦画No.1に君臨する最大の理由は、

 

その等身大の少女たちのあまりの瑞々しさ

 

当時全国からオーディションで選ばれた彼女達は未だ芝居が未経験なヒトも多く、演技力という面では余りに稚拙ですが、それが逆にこの作品の狙いなのかもしれないと思わせる程、彼女達の様子をリアルに描き切っていました。

リアル?

という意味ではちょっと語弊があるかもしれません・・。

多分、実際の女子高生としては当時としてもありえない設定なのでしょう。

でもここでいうリアルさとは、異性目線から見た、実際にはありえそうでありえない世界は、正に映画そのものの原点を考えさせられるような概念です。

 

あまりに儚く、どこか物憂げで、甘酸っぱくて切ない、散りゆく桜の花びらの様な、男性目線から見た理想の女子高生像を躊躇なく描き、そんな禁断の園を垣間見せてくれた事が、この作品が珠玉の名作として自分に残った原因なんじゃないかと。。

 

 

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 リアルタイムで進行していくストーリー

当時映画を見始めてまだ日が浅かった頃、自分が感動を覚えるのは回想シーンやエンディングの追記シーン等が多かったような気がします。

主人公の幼少期の思い出、悪人の過去に秘められたトラウマ、BASED ON A TRUE STORY等の最後の切ない登場人物のエピソード等等。

時間軸を飛ばし過去や未来を垣間見せることによって、見る側に意外性を持たせ様々なキャラクターに感情移入を促す手法はハリウッド映画の常套手段ですが、最近の邦画でもこのパターンが随分多くなってきたような。。

そんな中、この作品の様な余りにも古臭く古典的な心象風景を淡々と描く映画は、若いヒトにはちょっと退屈過ぎるかも。。。

それでもこの作品は2時間キッチリリアルタイムで他愛もない女子高生達の様子を描き続けます。

ジャックバウアーでお馴染みの『24』なら、彼が3っつくらい敵のアジトを強襲し、10人くらいの人間と揉め事を起こし、30人くらいの敵を撃ち殺しているトコロ。。

 

物語の始まりは、春の創立記念日当日の演劇部の稽古場。
2時間後に控える『櫻の園』の上映に向けて部員達が集まりだす。
些細なアクシデントで一旦は不穏な空気が流れるが、黙々と準備を始める彼女達。
そして幕が開く・・

 

ネタバレをしない様、このブログではあまり内容に細かく触れないようにしていくつもりですが、この作品は本当にこれだけで終わってしまいます。

それなのに、最後に感じるあの充実感。。

不思議と引き込まれていく繊細な映像描写、初々しくも危うげで消えてしまいそうな少女達の心の葛藤、女子高お約束の同性愛の描写さえも、微笑ましくぬくもりに包まれています。

劇中流れ続ける音色は、アラフォーには耳覚えのある太田胃散で有名なショパン 24の前奏曲 作品28 第7番 イ長調。 


実際の『櫻の園』を演じるまでの桜の園に包まれた少女達の様子は、まるで本当の戯曲を観ているかのような、純粋なココロの機微に触れられた気がしました。

 

 

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 満開の桜の下で

当時、自分が中学の卒業式後にこの作品を観たからでしょうか?

満開の桜を切なく感じた心情と相まって、この作品の桜も実に叙情的です。

 

部員のひとりの女子が、変わらず毎年咲いては散ってゆく桜に嫉妬の様な感情を覚え、やがて泣き出してしまうシーンがありますが、正に自分も胸が締め付けられるような感覚でした。

 

美しすぎるものを見た時、思わず恐怖を感じてしまう・・

 

そんな儚さと憐憫の情が入り混じった感覚が、当時の日本人特有の情緒だったような気がしています。

 

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