マリブのブログ

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

映画『希望の国』の私的な感想―原発被害の実態。福島で生き続ける人々―

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希望の国/2012(日本)/133分
監督: 園 子温
主演:夏八木 勲、大谷 直子、村上 淳、神楽坂 恵

 あの日の記憶。園子温の隠れた一面

冷たい熱帯魚や『恋の罪』等でむきだしの人間の性を捉え続ける鬼才監督園子温

バイオレンスでセクシャルな描写をモットーする彼の作品の中でもこの作品だけは異例中の異例です。

園子温の深層風景をあの原発事故をモチーフに焙り出した衝撃作。

初めて彼の作品を紹介する上でこの作品を選ぶのは、熱狂的な園子温信者にはちょっと怒られてしまうかもしれません。。

それぐらい実は純粋で、生真面目な彼の一面が垣間見えてしまうのがこの映画。

 

・・あの日、貴方は何処で何をしていましたか?

 

自分は家で風呂上がりのまま、裸でソファに寝そべっていました。
すると突然やってきた大きな揺れに、それまで膝で寝ていたウチの猫が鋭い爪で肌を掻きむしって逃げてゆきます。
あまりの痛さに飛び起きると、つけっぱなしのテレビから流れる地震速報。
まるで映画を見ているかのように、津波に呑み込まれていく街や家屋に目が釘付けになりました。

東京で起きた混乱と言えば、主要電車が全て止まり帰宅困難者が続出した事くらい。
自分も車で知人の何人かを迎えに行ったりはしましたが、本当の被災地の状況など当時は知る由もありませんでした。

その後、ある映画の取材で現地に赴くことになった時に、初めて現地の方達から直接聴いた実際の状況に、殆ど言葉が出ませんでした。

メディアの人間の一人として、自らの認識の甘さを酷く痛感させられた事を今もはっきり覚えています。

そんな漠然としかあの日の事を知らない人達に、是非観てもらいたいのがこの映画。

ストーリーは一応SF的な設定での架空の世界、街での出来事としていますが、もちろん舞台は福島県。

私的には、この作品ほどあの原発事故の本当の恐怖を真正面から捉えた作品は他にありません。

今回はあらすじは敢えて差し控えます。

フィクションですが、多分この映画そのものが、実際に起きたあの日からの記憶なので。 

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 夏八木勲、大谷直子、園子温

映画は当時実際に起きたであろう福島の状況を、数人の被災者の目線から描かれたオムニバス形式の作風です。

園子温はこの映画の撮影の為かなり入念に現地取材を行っており、現状を知らない自分達からすると、まるでSFのような世界観。

そんな非現実的に感じる現場の生々しい状況を、情緒的かつドラスティックに演じた往年の名俳優、夏八木勲、大谷直子らの演技には圧巻の一言。

年配の方には二人があまりに瑞々しすぎて、素朴な田舎の酪農家に感じられない方も多いみたいですが、私的にはそこが監督のねらいなような気もします。

この題材は、多分他の本当に朴訥な俳優でやってしまうとちょっと重た過ぎて観ていられないテーマなような・・

なので、アクションスターとしてエネルギッシュな角川映画に出ていた彼や、艶のある芝居を永遠に熟せる彼女達が演じるからこそ、この作品が初めて重たいドキュメントではなく、エンターテインメントな映画として広い世代の観客達に届ける事が出来たんじゃないでしょうか?

園さん自身、短期間で急いで撮影されたこの映画において、賛否両論巻き起こることなぞ多分想定しています。

それでも映画人の一員として、採算を無視してでもこの映画をリアルタイムに公開させた、一見破天荒に見える彼の誠実さ・・

 

劇中の老夫婦を演じた夏八木さんは5年前ガンで他界されましたが、この映画の中の彼を見ていると、日本人らしいただの侠を演じさせたら彼の右に出る俳優はいないんじゃないかと思わされてしまいます。

この映画はそんな彼の遺作となってしまった作品ですが、そのとてつもない迫力のおかげで実際の人間達の本当の悲壮感が一層深く伝わってきます。

そしてそんな彼の痴呆症の妻を演じる大谷直子は、どこか別世界の出来事に感じてしまう福島のあの日を、とても身近に感じさせてくれる象徴的な設定。

劇中の台詞で呆けた彼女が常に、

「おとうさん、帰ろうよ」

と連呼するシーンがありますが、これこそが被災した現場で帰る場所を失った人々のリアルな声そのもの。

シェイクスピアの道化のような中々トリッキーな演出ですが、語りづらい現在進行形の問題へのアンチテーゼを園子温らしく上手く表現しています。

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 分けられた人たち

自分も双葉町で実際に聞き及びましたが、この映画の中で描かれた一本の杭によって隔たれた人々の描写は本当の話です。

ある日を境に、放射能という目に見えない物質に隔てられ、その場所に残らざるえなかった人、そして二度と戻れなくなってしまった人達がいる現状を皆さんはどこまでご存じでしょうか?

立場が違っても、その後双方が過酷な差別を受けてきた実態は、同じ日本人として見過ごす事は出来ません。

あれから7年が経ち、忘れっぽい自分達はあの大惨事が何時しか歴史の一部だったかのような感覚に陥りがちです。

しかし劇中懐妊する妊婦や、その彼女達を必死で守ろうとする夫と同世代の自分達に出来る事は何があるんでしょうか?

 

自分に出来ることは、せめてこの映画の記事を上げることくらい。。

それでもタイトルにもある『希望の国』を作る為、今尚必死で生き抜いてらっしゃる方達がいるコトを忘れずにいたい、今日はそんな一日です。

 

『希望の国』
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